Far away ~いつまでも、君を・・・~
「先輩、向こうにはもう・・・?」


やがて、やや遠慮がちにそう切り出した尚輝。


「うん。仕事は先月いっぱいでケリをつけて、今は有休消化中。約半月掛けて、荷物整理して、一昨日発送した。今頃はもう実家に着いてるんじゃないかな?あんまり物は買わなかったつもりなんだけど、9年も暮らしてると、いつの間にか、荷物も増えててね。思ったより手間取っちゃった。」


彩は苦笑い。


「そうですか。じゃしばらくは・・・。」


「当面は就職活動しながら、家事手伝いかな?親には迷惑掛けちゃうけど。」


「・・・。」


「もう少し、向こうで頑張ろうって、思った時期もあったんだけど、結局逃げて来ちゃった。情けね・・・。」


そう言って、俯く彩に


「いいじゃないですか、それで。」


尚輝は優しく微笑む。


「俺はずっとこっちだから、よくわからないけど、Uターンして来た連中はみんな言ってますよ。やっぱり故郷はいいって。」


「尚輝・・・。」


「今の彩先輩には、一回立ち止まって、英気を養う時間が必要なんです。新たな一歩を踏み出す為に。その為にも、ここは、故郷は最高の場所じゃないですか。」


そんなことを言う尚輝の横顔を、彩は少し眺めていたが


「そっか、そうだよね。」


納得したように頷いた。


そして、また2人は前を向いて、向日葵に目をやる。どのくらい経っただろう


「尚輝は成長したよね。」


ポツンと呟くように、彩は口を開いた。


「えっ?」


「尚輝と出会った時、10年後に自分があんたに励ましてもらうようになるなんて、想像もしなかった。」


「ひでぇなぁって言いたいけど、確かにあの頃の俺は、何事にもいい加減なただの先輩のストーカーだったから。」


尚輝は苦笑いで彩を見る。


「それが今や、母校の教師になって、部活顧問としても、後輩たちをキチンと導いて・・・それに引き換え、私は一体何してるんだろうな・・・。」


「そんなことを言わないで下さい。」


自嘲気味な言葉を吐く彩を、懸命に励ます尚輝は、ふと思いついたように


「そうだ、よかったら、しばらくウチの部の面倒みてもらえませんか?」


表情を輝かせて、彩に提案した。
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