Far away ~いつまでも、君を・・・~

大学入学を期に、故郷を離れた彩。以降は、忙しさに里帰りもままならかった。


そして約10年ぶりに戻って来た我が家の自室は、よく聞く物置きと化していることもなく、一足先に届いていたダンボールと共に迎えてくれた。


そのダンボール整理に、なんだかんだと1週間程を要し、ようやくそれが落ち着いてから、彩の久々の故郷の生活が本格化した。


2歳上の兄は、彩より早く実家を離れ、今も遠くで暮らす。


「彩は、1年に1度でも帰って来るからまだいい方。あの子なんて、この前、顔見たのいつだったか忘れちゃったよ。」


母親が呆れ顔で愚痴っていた状態は、今も変わってないようだ。


つまり、両親はしばらくの間、2人きりの水入らずの生活を満喫していたわけだが、そこへ彩がお邪魔虫として、戻って来た形になった。


「全く今更、あんたが出戻って来るなんて思わなかったよ。」


「出戻ってって・・・私、別にバツイチになって帰って来たわけじゃないんだけど。」


彩が実家を離れるまでは、専業主婦だった母は、今はスーパ-でレジ打ちのパートをしながら、趣味のサークル活動に精を出しているようで


「似たようなもんでしょ。ま、帰って来たからには、当分はしっかり家政婦してもらうからね。」


遠慮会釈のない物言いだが、こんな形で戻って来たことを娘が内心申し訳ないと思っていることを察しての、母親なりの愛情表現なのだということは、彩はちゃんと理解していた。


一方の父は、相変わらずの寡黙さだが、世の父親の例に漏れず、溺愛していた娘が戻ってきたことが、嬉しくて仕方ないらしく、食卓に並ぶ娘の手料理に相好を崩し


「彩、もうどこにも行かんでいいぞ。」


とかなり本気で言い出し、母親に窘められている。


そんなこんなで流れて行く日々。それは10年近くを過ごした都会のそれとは、全く異質のノンビリとした、心地よい時間で


(私、自分でも気が付かない間に、疲れてたんだな・・・。)


改めて、気付いたりしていた。こうして、少しオーバ-ホ-ルの時間を持つことは、無意味ではないし、許されると思うが、といってこのままずっとというわけにはいかないことも、彩も十分にわかっていた。
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