Far away ~いつまでも、君を・・・~
「私は反対だな。」


OB・OG会で、彩と再会を果たした数日後、尚輝のアパ-トでのおうちデート。夕食も終わり、まったりとくつろいでいる最中、雑談の流れから、尚輝が彩に弓道部の指導を依頼したことを話すと、京香がはっきりとそう言い、尚輝は思わず目を剥いた。


「なんでだよ?」


思わず問い返すと


「報酬はどうするのよ?」


「えっ?」


「彩さん仕事辞めて、こっちに戻って来たんでしょ?だとしたら無職ってことじゃない。そんな人に無料奉仕してもらうつもり?」


「そ、それは・・・。」


「葉山さんには、部費の中からアルバイト代や交通費として、いくらか払ってるんしょ?葉山さんは卒業したてで、一緒にやった後輩もいるし、将来の自分の為って気持ちもあるみたいだし、なんといってもまだ学生さんだから、金額なんかあまり気にしてないだろうけど、彩さんは立派な社会人なんだから、彼女と同じ扱いってわけにはいかないよ。だとしたら、とても部費じゃ賄えない。」


「・・・。」


「部活動指導員制度が使えればいいけど、彩さんは選手としての実績や人柄は文句ないだろうけど、現役離れて久しいし、なんていっても必要な事前研修を受けてないからね。それに・・・。」


ここまで立て板に水のようにまくし立てていた京香が、ふと言い淀む。が意を決したように


「警察の取り調べを受けたような人に、学校の部活に関与してもらうのはいかがなものかって声は、当然出て来ると思うよ・・・。」


やや言いづらそうにはしていたが、はっきりと口にした。その言葉を聞いた途端、それまでほとんど言い返せないままだった尚輝が、サッと顔色を変えた。


「お前、何言ってるんだ。彩先輩は巻き込まれただけで、何の関係もないってことははっきりしてるんだ。あんまりなこと言うなよ!」


怒鳴りつけられた京香は少し、恋人の顔を見ていたが


「でも取り調べを受けたのは事実。その事実だけをあげつらって、いろんなことを言う人は、残念だけど絶対にいるんだよ。風評被害みたいなもので、彩さんがこれ以上傷付くようなことになったら、それは尚輝の本意じゃないでしょ?」


「京香・・・。」


「だいたい、それ以前にさ。」


勢いを削がれたように息を呑んだ恋人に、京香は続ける。


「尚輝は全然わかってないよ。」


「えっ?」


「今の彩さんが、あの道場に入ったら、弓を握ったら、何を、誰を思い出す?それが彩さんにとって、どんなにつらいことか・・・尚輝は想像出来ないの?」


「京香・・・。」


先程の怒りは影を潜め、尚輝は言葉を失っていた。
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