Far away ~いつまでも、君を・・・~
果たして、それから数日後、彩からは


『せっかく言ってもらったのに、申し訳ないけど、今の私が弓道部の指導に関わるのは、いろいろな意味でかえってご迷惑を掛けるだけだし、難しいと思う。だから・・・ごめんね。』


と断りというか辞退の連絡が入った。「いろいろな意味」という彼女の言葉に尚輝は複雑な思いを抱かされた。


その日の帰り道、車の中で京香にそのことを報告すると


「そうだろうなぁ。」


仕方ないよ、と言わんばかりの口調で答える。


「こんなことを言うと、また尚輝に怒られるかもしれないけど、彩さん、こっちに帰って来たの、正解だったのかな?」


「どういう意味だ?」


「向こうでいろいろあって、大変だったのはわかるし、もう嫌になっちゃったのも無理ないと思うけど、向こうって、こっちにいると信じられないくらい、いろんな人間関係とか近所付き合いとか希薄なんだよ。」


「らしいな。」


「私も最初は随分戸惑った。だって、アパートで隣に住んでる人とほとんど接触もないし、どんな人か、下手したら男か女かもわからないなんて、こっちじゃあんまり考えられないじゃない。」


「確かに。」


「私も6年向こうにいて、帰って来て、こっちはノンビリしてるし、ホッとしたのはあるんだけど、反面、向こうの無機質な人間関係を経験してしまうと、こっち特有の濃厚な交友や接触が、正直鬱陶しく感じることもあるんだよね。」


京香の言葉に、尚輝は驚きの表情を浮かべる。


「彩さんが10年ぶりに帰って来て、歓迎もされるだろうけど、根掘り葉掘りいろんなことを聞いてくるお節介は当然いて、またどこから仕入れてくるのか、大して正確でもない情報をまことしやかに喋る人間も出て来る。この前言ったことと、重なっちゃうけど、彩さんが不必要に傷付くことになっちゃわないかな、なんて余計な心配しちゃうんだよ。」


「だとしたら、先輩は向こうにいた方が、余計な好奇な視線を浴びなくて済んだかもしれないってことか?」


「うん。でも、そんなことは多分彩さん本人が一番よく考えただろうし、私が考え過ぎなのかもしれない。要はこれも余計なお節介なんだよ。」


「京香・・・。」


「彩さんには悪いけど、今の私たちが考えなきゃならないのは、もうすぐ始まる新学期のことだよ、そうでしょ、二階先生?」


最後はそう言って微笑む恋人に、尚輝は固い表情で、微かに頷いて見せた。
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