Far away ~いつまでも、君を・・・~
彩と遥が、初めて出会ってから、もう12年の月日が流れた。


文字通り、一緒に青春を駆け抜けた高校時代。そして大学生になり、社会に出て、2人で過ごす時間はどんどん減って行ってしまったが、それでもそれが2人の友情に水を差すことはなかった。


そして今、いつ以来かと思うくらい久しぶりに共に過ごす時間が、嬉しかった。


高校生に戻ったかのように、話しても話しても、話題は尽きなかった。


だけど・・・お喋りに夢中になっているようで、遥の意識は常に時に傍らに、時に腕の中にいる我が子に注がれていることに彩が気が付くのに、大した時間は必要としなかった。


泣き声1つ、表情1つで彼が今、何を欲しているのかを察し、精一杯の愛情を注いでいる親友の姿は紛れもなく「母」そのもの。


出会ってから、ずっと同じ道を歩みながら、一緒に成長して来たはずの親友が、今、自分にとっては未知の領域を歩み始めていることを、彩はまざまざと目の当たりにすることになった。


「大変なんだね、お母さんって。」


彩が呟くように、そう言ったのは、夕食が終わり、沐浴も終わって、大志が寝付いて、一段落した頃だった。


「そうだね。今、私がちょっと目を離したら、この子は生きていけないんだもん。正直、プレッシャーはあるし、楽ではないよ。」


真面目な表情で、そう言った遥は、でも次の瞬間


「でも可愛い、本当に可愛いの。よく『目の中に入れても痛くない』とか『食べちゃいたいくらい』とか言うけど、その気持ち全く同感。だから頑張れるんだ。」


顔をほころばせる。


「そっか・・・充実してるんだね、遥。遥が羨ましくなった。私もお母さんになりたい。でも・・・その為には、まずパートナーを見つけないと。それが難題なんだよな。」


だけど、それに対する彩の表情は寂しげだ。


「彩・・・。」


「母親にはお見合いしろ、なんて言われてる。あんたがその気なら、いくらでも話はあるんだって言ってるけど、本当なのかな?」


そう言って、一瞬苦笑いを浮かべた彩は


「でも、今はとてもそんな気にならないよ。母親は気分転換のつもりで気楽に会えばいいなんて、言ってくれるけど、それじゃお相手の方に失礼だし、第一、私、そんなに簡単にいろいろ割り切れるほど、捌けた性格じゃないから・・・。」


そう続けると、1つ大きく、ため息をついた。
< 250 / 353 >

この作品をシェア

pagetop