Far away ~いつまでも、君を・・・~
食事が終わり、彩と斗真は改めて部屋に入った。2人で過ごすにはあまりも広く、その内装の豪華さには、目を見張るものがあった。そしてぎこちない時間を過ごした後、斗真が先にバスル-ムに向かう。彼の後は自分が、バスルームに入り、そしてその後は・・・。彩にとっては未知の時間がやって来る。


やがて、バスロ-ブに着替えた斗真が戻って来る。初めて見る斗真の、男性のその姿に彩はその時が、近づいて来ていることを、否が応でも意識させられる。


そして、斗真に促された彩は、緊張の面持ちのまま、立ち上がる。シャワ-を浴びる時間が、いつもより長くなるのは仕方がないこと。念入りにくまなく身を清め、身支度を整え、覚悟を決めたように1つ息を大きくつくと、彩はバスルームを出た。


「お待たせ・・・しました。」


躊躇いがちに彩が声を掛けると、それまで手持ち無沙汰と言った風情でソファに座っていた斗真が、フッと笑顔を見せて立ち上がった。


「行こうか。」


優しく声を掛けて来た斗真に


「はい。でも、その前に。」


彩はそう言うと、左の掌を斗真に向ける。その薬指に、先ほど渡した指輪が輝いているのを見た斗真は


「彩・・・。」


息を呑んだように彼女を見た。


「こんなことを言うと重い女だと思われてしまうでしょうけど、この齢まで守ってきたものを捧げるにはそれなりの覚悟と勇気が必要でした。だけど、それを斗真さんに受け取って欲しくて、今日は来ました。だから、先ほどのあなたのお気持ち、本当に嬉しかったです。これからも・・・末永くよろしくお願いします。」


目に涙を浮かべて、でも精一杯の笑顔で、彩は言った。そんな彼女をじっと見つめていた斗真は


「ありがとう、重いなんてとんでもない。生涯を共にしたいと思っている女性から、大切な初めてを捧げてもらえるなんて、男としてこんな光栄なことはないよ。」


やはり満面の笑みで答える。


「斗真さん・・・。」


「彩、由理佳と過ごした時間はなかったことには出来ないけど、間違いなくもう終わったんだ。今の俺には、彩しか見えない。だから、これからもずっと俺と一緒に居て欲しい。彩、愛してるよ。」


そう言って、自分を見つめる斗真に


「はい、私も愛しています。あなたを、あなただけを・・・。」


彩は潤んだ目で彼を見つめながら答える。その言葉に頷いた斗真は、彩の身体を抱き寄せ、自分を見上げる可憐な唇に、自らのそれを寄せて行く。


(斗真さん・・・。)


甘美な感情が、彩の身体を駆け抜けて行く。そしてそのまま、愛しい人に、その身を委ねて行った。
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