Far away ~いつまでも、君を・・・~
その夜、帰宅して、慌ただしくドアを開けた斗真が


「彩!」


と中に呼び掛けると


「お帰りなさい。」


彩が笑顔で出迎えた。


「ただいま。まさかのLINEをもらったから、急いで帰って来た。」


息を弾ませ、興奮気味に言う斗真。夕方、LINEの着信音が鳴り、スマホを見ると


『明日、ここから仕事行かせてもらうから、もう一泊させてもらいます。お夕飯、準備して待ってます。』


彩からのサプライズメッセ-ジが目に入り、喜び勇んで帰って来たようだ。


「そっか、ならよかった。」


そんな恋人の様子に微笑む彩を、斗真がギュッと抱き寄せ、彩も嬉しそうに彼に身を寄せて行く。


今日のメニュ-はハンバ-グ、2日続けての肉料理はちょっとどうだったかなと、彩は不安になったが、斗真は喜んで食べてくれた。


「部屋もすっかり片付いてるし、洗濯までしてくれたのか?」


「うん。」


「なんか悪かったな。」


「ううん、私が勝手にやったことだから。」


「彩にパンツ洗ってもらっちゃったのか・・・。」


「ちょっと恥ずかしかったけど、ね。」


「ありがとう。」


「うん・・・。」


食事も終わり、そんな会話を交わしながら、ソファに並んで座って、しばらくまったりしていた2人だったが、明日はお前も早いんだから、そろそろ休もうという斗真の言葉に、彩は頷いた。


昨日と同じように片付けとシャワーを済ませ、彩がベッドに入った時は、既に日付が変わっていた。今夜はしない約束だったが、彩はそっと斗真の身体に身を寄せる。するとやはり起きていたようで、斗真は自分の腕の中で恋人をスッポリと収めた。


恋人のぬくもりと香りにしばらく酔っていた彩だったが、やがて意を決したように口を開いた。


「お仕事、上手く行ってないの?」


その恋人の問いに、ハッとしたように斗真は彼女の顔を見る。


「ごめんなさい。余計なこと聞いちゃって。でも今朝のあなたの様子を見てたら・・・。」


「それで帰らないで、待っててくれたのか?」


斗真の問いに、コクリと頷く彩。


「すまん、心配掛けて。でも大丈夫、彩が心配することなんか、何もないから。」


そう言って、斗真は安心させるように彩の髪を撫でるが


「あの・・・会社の資金が足りないの?」


躊躇いがちにそう尋ねた彩に、一瞬驚いた表情になった斗真は、今朝の電話の会話を思い出し


「彩の前で話すことじゃなかったな、すまん。」


と苦笑交じりに答えた。


「あのくらいの金、証券会社にいる頃は、平気な顔で右から左に動かしてたのにな。やっぱり自分の会社の資金となると、そんな簡単な話じゃなくなっちまう。情けねぇな。」


そう言って、彩を見た斗真は


「でも、俺は負けねぇよ。彩が側にいてくれれば、俺は絶対に負けねぇ。だから、安心してくれ。」


「斗真さん・・・。」


「さ、寝よう。おやすみ。」


そう言うと斗真は彩に口づけ、彼女をギュッと抱きしめると目を瞑った。


その恋人の顔を、彩は不安げに見つめていた。
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