Far away ~いつまでも、君を・・・~
結局、拒否する理由もなく、彩は刑事と共に署に向かった。やましいことなど、何もないはずなのに、彩の胸は、締め付けられるかのように苦しかった。中に入り、取調室に案内された彩。着席して、女性刑事と共に待っていると、やがて1人の中年男性刑事が入って来て、柔らかな笑顔をたたえながら、彩の前に座った。


「緊張されてますね。」


「はい。」


「若いお嬢さんが、いきなりこんなところに連れて来られて、無理もありません。本当に申し訳ありません。ですが、これも仕事なのでご容赦ください。ではいくつか、お聞きします。」


こうソフトに切り出した男性刑事。まずは斗真との関係を聞かれたので、婚約はしてないが結婚を前提に交際していると答えると、そこからにこやかに雑談に持っていき、彩の心を和ませた後、彼は核心に切り込んで来た。


なぜ彩が警察に呼ばれたか、それは彼女が斗真の会社に貸与した形になっている200万の資金について尋ねる為だった。詳しくは話せないが、斗真の逮捕容疑は証券会社在職中のインサイダ-取引だが、実は斗真の現在の会社も別の不正に加担している容疑があり、それを知った上で、彩が会社に資金提供をしたのか否か、それを確認する為だった。


もちろん答えは否、彩は斗真が犯罪に手を染めていたことなど、全く知らなかった。いや、今でも信じていない。彩は真っすぐに刑事を見て、そう答えた。


「そうですか、わかりました。」


初めの頃のおどおどした態度が一変し、毅然とそう答えた彩に、彼はゆっくりと頷いた。


「私は彼の取り調べを担当しています。逮捕後の彼は、落ち着いて取り調べに応じていますが、一度だけ、取り乱して激高したことがあります。それは、彼にあなたからの資金のことを尋ねた時です。」


その刑事の言葉に、彩は思わず彼の顔を見た。


「彼は大きく首を振り、『彩は関係ない、彩は何も知らない。彩はただ俺を助けたい一心で、彼女が真面目に働いて貯めて来た大切な金を貸してくれたんだ。あの子が犯罪に加担するなんてあり得ない、絶対にあり得ない、あり得ないんだ、信じてくれ!』そう絶叫していた。」


「斗真さん・・・。」


「この商売をしているとね、今話している相手が嘘を吐いているかどうか、だいたいわかるようになります。この時の彼の叫びは真実だとすぐにわかった。でも、一応調べないといけないんでね。因果な商売です。」


そう言って、一瞬苦笑いを浮かべた刑事は、すぐに表情を戻すと


「彼のあなたへの愛情は本物だった。なのに、なぜそのあなたを悲しませ、裏切るようなことをしたのか。やりきれませんな。」


ため息をついた。その彼の切なそうな表情を見た時、彩の瞳から、思わず涙がこぼれていた。
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