Far away ~いつまでも、君を・・・~
それから2週間ほどが過ぎた頃、彩は大地に呼び出された。彼と2人で会うことは、躊躇されたが、当日待ち合わせ場所のカフェレストランの個室で彩を待っていたのは、大地ともう1人、彼と同年配の男性だった。


伊藤公也(いとうきみや)と名乗るその男性は、斗真の担当弁護士だという。大学時代の斗真や大地の同期生で、その縁で今回の件の担当になったという。名刺を差し出した伊藤は


「私には当然守秘義務がありますが、お話しできる範囲で、廣瀬さんに今回のことをお話ししようと、今日は参りました。それが、本郷の希望でもあります。」


と切り出し、彩は厳しい表情で頷いた。


今日の事態を招いたきっかけは、証券会社に就職し、顧客である富裕層と接しているうちに、斗真の金銭感覚がマヒし始めたことだったという。サラリ-マンとしては、高給取りとされる証券マンだが、顧客たちの価値観に染まってしまっては、とても足りはしない。


そんな斗真に悪魔の囁きをしながら接近してきたのが、企業買収や合併といった情報を扱う部署に所属する、彼の2年先輩の男性社員だった。その社員は、斗真が新入社員時代の教育担当で、彼が異動してからも、親しい付き合いをしていた。


その彼にそそのかされて、インサイダ-取引に手を染めたのが転落の始まりだった。いけないとは思いながらも、派手な生活のうまみを忘れられず、深みに嵌って行ったらしい。


彼らは、ある顧客を巻き込んで、彼の名前で取引をして、彼に儲けさせ、そのキックバックを得るという方式をとった。彼ら証券マンが直接株の売買をすることは、法律で禁止されているからだ。


しかし危ない橋を渡っていることは、斗真は十分理解していた。彼が仲間を誘って会社を辞め、独立したのは彩に語った思いもあったが、それ以上にそろそろ彼らと手を切らないと危ないと感じたからだったのだ。


だが独立するにも、資金がいる。それを援助したのが、彩がステ-キハウスで斗真と会っていたのを目撃した女性の父親だった。彼は斗真を買っていて、今後の自らの財産形成のアドバイザ-に仕立てるつもりで、斗真を支援した。


そして、船出した斗真たちの新会社だったが、滑り出しこそ順調だったが、折悪く世界的な金融不況の波が襲ってきて、彼らのコンサルティング業務は、失敗が目立ち始めた。その上、斗真が自分の娘ではなく、彩との関係を深めて行くことに腹を立てた支援者は、新会社から資金を引き揚げると言い始めた。


斗真は苦境に立った。
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