Far away ~いつまでも、君を・・・~
斗真は取り調べ段階で、全ての容疑を認め、起訴された。


「後悔している。家族や友人、それに誰よりも大切な最愛の人を裏切り、傷付けた。悔やんでも悔やみきれない。」


彼は取り調べの検察官に、こう述べて、ガックリと肩を落としたという。


それから、彩の生活は、日常に戻った。心にポッカリと穴が開いたような喪失感は、どうしようもなかったが、しかし今はそれを抱えながら、生きて行くしかない。彼女は仕事に邁進した。


そんなある日、唐突に由理佳が仕事帰りの彩を待ち構えていた。お互いの姿を認めた瞬間、複雑な表情を浮かべた2人だったが、すぐにどちらが誘うでもなく、一緒に歩き出した。


彩の職場のホテルの前面には、デートスポットとして名高いベイサイドブリッジがあり、この時間は見事なライトアップで彩られていた。それを斗真と寄り添って眺めた記憶が、彩にも由理佳にもある。


「ごめんね。」


無言のまま、並んでしばらく橋を見つめていた2人だったが、やがて由理佳がポツンとそう呟いた。その声に、ハッとしたように振り向いた彩に


「結果的にあんたに、厄介者を押し付けて、逃げたようなもんだよね、私。酷い先輩だ。」


そう言うと、由理佳も彩を見た。


「いいえ。由理佳さんは何度も言ってましたよね。斗真は変わった、もう私の愛した、あんたの尊敬してた斗真じゃないって。やっぱり由理佳さんはあの人のことをちゃんとわかってらした。でも私にはわからなかった。少なくとも私の前では、確かに多少お金の使い方は荒っぽかったけど、優しくて誠実で、そしてカッコいい、高校時代に憧れた斗真さんのままに見えたんです・・・。」


悲し気な表情で彩は言う。


「そっか・・・。」


「そして今、私は彼に失望してます。彼はこう言ったそうです。『彩が愛してくれた本郷斗真は死んだ。もう俺は君に会う資格がない。俺のことは早く忘れて、新たな道を歩んで欲しい。』って。こんな卑怯な言い分ってあります?」


「彩・・・。」


「結局、斗真さんにとって、私は由理佳さんの身代わりに過ぎなかったんですかね?」


「それは・・・。」


違うよ、と続けようとした由理佳だが、結局その言葉を飲み込んでしまう。


「せめて、その言葉は面と向かって言って欲しかった。私の出したお金を、彼のご両親が代わって弁済して下さると、お申し出がありましたけど、お断りしました。何年掛かっても構いません、彼が彼自身の手で返してくれるよう、お伝えくださいとお答えしましたけど、それに対する返事もありません。斗真さんは、本当に変わってしまったんですね・・・。」


そう言って寂しそうに笑った彩の横で、由理佳は言葉を失っていた。
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