Far away ~いつまでも、君を・・・~
その後の朝礼で、課長の口から、彩が当面、プランナ-業務を外れることが、出席者に告げられた。突然のことで、驚きを隠せない他のプランナ-たちが、思わず彩の顔を見たが、彼女は無表情だった。「一身上の都合」とのことだったが、それが何のなのか、当然憶測を呼び、やがて事情は少しずつ漏れて行った。


「私が聞いた限りでは、廣瀬さんはむしろ被害者じゃないですか?それなのに・・・。」


隣のデスクの松下が、納得出来ないと言った表情で、声を掛けて来たが


「課長のご判断ですから。」


彩は取り合おうとはしなかった。


そして次の日、課長のデスクの前に立った彩は、退職願を提出した。さすがに驚きの表情を浮かべた課長に


「この度は、ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。昨日ご指示いただいた通り、現在担当しているお客様については、責任をもって、みなさんに引き継ぎます。またこれは最後のお願いですが、お客様には、一身上の都合で急遽退職することになり、プランナ-が交代せざるを得なくなってしまったことを自分の口からお詫びさせて下さい。よろしくお願いします。」


そう言って一礼すると、何か言いたそうな課長に背を向けた。


「ちょっと待ってください。そんないきなり・・・。」


松下が慌てて駆け寄ってきたが


「すみません、ご迷惑をお掛けしますが、もう決めたことなので。後のことは、よろしくお願いします。」


彩は固い表情でそう答えただけだった。


更に急を聞いて、今は他部署にいる藤原優里が、休憩時間に飛んで来たが


「もう無理です。これ以上・・・頑張れません。優里さん、ごめんなさい。」


気丈な彩が、そう涙を浮かべて、言うのを見て、何も言えなくなってしまった。


それから1ヶ月。「飛ぶ鳥、後を濁さず」を心の中で自分に言い聞かせて、彩は残された時間の中で、ホテルベイサイドシティのウェディングプランナ-として為すべきこと、為さねばならないことに、全力で取り組んだ。


「もう思い残すことも、やり残したこともありません。本当にお世話になりました、ありがとうございました。」


最終日、同僚たちに笑顔でそう言うと、彩はベルガ-ルとして1年、ウェディングプランナ-として5年間勤めた職場を後にした。


そして、彩は故郷に帰って来たのだ。
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