Far away ~いつまでも、君を・・・~

2学期が始まって、2ヶ月が経とうとしていた。秋も深まり、まもなく11月の声を聞こうかと言う時期。この日、授業を終えた尚輝は、毎水曜日に行われる教職員会議に臨んでいた。


まず校長を中心とした全体会が行われ、そのあと担当学年別に分かれての分科会。特に問題がなければ、2時間前後で終了する。


この春、卒業生を送り出した尚輝は、新年度では再び1年生を担当している。3年間の高校生活で、すっかり大人びた面々を送り出したあとに迎えた1年生は初々しくもまだまだ幼く見え、いろいろと目を配ってやらないければと、気を引き締めたの思い出す。


それから、はや半年。彼らもすっかり高校生活に慣れ、明るい声を教室に校舎に響かせていた。この日の会議でも、特に問題のある生徒の存在の報告はなく、分科会は和やかな雰囲気で終了した。


「お疲れ様。」


会議室を出た尚輝に声を掛けたのは京香、彼女もまた今年から1年生を担当している。


「お疲れ。」


笑顔で答えた尚輝の横に、並んだ京香は


「このあと、すぐ道場?」


と尋ねる。


「ああ。先生は?」


「うん、今日はこっちは部活はないから、もう上がろうかな。ちょっと生徒から相談されてることがあって。いろいろ調べて、明日には返事してあげたいから。」


「そっか、大変だな。じゃ、気をつけてな。」


「うん、また明日。」


そんな会話を交わして、2人は別れた。


「菅野先生は、キャリアはそれなりに積んでいるが、何といってもクラスを受け持つのは初めてだ。僕ももちろんフォロ-するが、二階先生もいろいろ相談に乗ってやってくれ。よろしく頼むよ。」


一緒の学年の担任に決まった後、そう言ってニヤリと笑った学年主任は、実は2人が生徒だった時から在職していて、2人の仲は先刻ご承知だった。


主任に言われるまでもなく、そのつもりだった尚輝は、以来いろんな相談を受けたり、陰に陽にバックアップしてきたつもりだが、念願のクラス担任になって張り切る京香は、時に壁にぶち当たり、時に涙したりもしたが、日一日と教師として成長していると、横にいて実感している。


今も生徒に頼られたのが嬉しいのだろう。明るい表情で尚輝に告げ、張り切って立ち去って行く恋人の後ろ姿を


(よかったな、京香。これからも一緒に頑張ろうぜ。)


微笑ましい気持ちで見送っていた。
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