Far away ~いつまでも、君を・・・~
弓と矢を手に、久しぶりに的前に立つと、やはり気が引き締まる。的を見据え、所作に入ると、力一杯弓を引く。やがて放たれた矢は、綺麗な孤を描いて、的に吸い込まれて行く。


1射また1射と射った矢は、やはり的中。それを見て、フッと息をつくと


「さすがだね。」


という声が聞こえて来て、振り向くと千夏が立っている。


「いや、道着じゃねぇと、やっばり気分出ないな。」


苦笑いで答えたジャージ姿の尚輝に、千夏はゆっくりと近付いて来る。


「帰らなかったのか?」


「道場に電気が点いてるから、誰か居残り練習してるのかと思って来たら、まさかの尚輝っちだった。」


そう言って笑った千夏は


「どうしたの?急に。」


と尋ねる。


「わからん、なんか急にな。」


尚輝も笑いながら、答えると


「すっかり遅くなってしまった。さ、帰ろう。」


千夏を促した。コクリと頷いた彼女と道場を出た尚輝は施錠すると


「でも、葉山に来てもらって、本当に助かってるよ。」


と声を掛けた。


「どうしたの?また急に?」


「いや、改めてそう思ったんだ。ただ、前にも言ったが、授業や部活をサボってまで、こっちに来るのだけは止めてくれよ。」


「私が授業サボるように見える?それにウチの部の緩さは尚輝っちだって知ってるじゃない。」


心配する尚輝に、千夏は笑って答えるが、すぐにそれを収めると


「私が来ることで、尚輝っちや後輩たちの役に立ってるんなら、それはそれで嬉しいけど、今、私がこうしてここに来てるのは、何よりも自分の為だから。」


尚輝を見て言った。


「そうだよな、将来のいい勉強になるものな。」


「それもある。」


「それも?」


「うん・・・なにより卒業しても、こうやって尚輝っちと会える。」


「葉山・・・。」


思わず息を呑む尚輝。


「さっきも言ったけど、私はもうここの生徒じゃない。あなたと私はもう教師と生徒という関係じゃないんだよ。」


じっと尚輝の目を見たまま、そんなことを言い出した千夏は、先ほどまでの道着姿ではなく、もちろん少し前まで見慣れていた制服姿でもなく、カジュアルな女子大学生らしい秋の装いを纏い、出会った頃とは、見違えるように大人びている。


「私のあなたに対する気持ちは、今も変わってないから。」


そんな千夏に、そんなことを言われて・・・思わぬ展開に、情けなくも尚輝は固まってしまう。
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