Far away ~いつまでも、君を・・・~
「そんな顔しないでよ。」


表情を強張らせる尚輝を見て、千夏はやや苦笑気味の表情になる。


「私の気持ちが、あなたに受け入れてもらえないことは、ちゃんとわかってます。でもそれは私があなたを好きじゃなくなる理由にはならない、そうでしょ?」


「葉山・・・。」


「だいたいさ、尚輝っちがいつまでもはっきりしないから、いけないんだからね。」


そう言うと、今度はふくれ気味の表情を浮かべる千夏。


「京香先生とはどうなってるのよ。」


「えっ?」


「まだプロポ-ズもしてないの?」


「葉山・・・。」


「あのね、この際だから、教えとくけど、2人の関係、結構気が付いてる人いるからね。」


その千夏の言葉に、尚輝は唖然とした表情になる。


「そっちは隠してるつもりなのかもしれないけど、モロバレだから。私たちの代だって、美奈も他のみんなも気が付いてたよ。言っときますけど、私は誰にも何にも言ってないからね。」


「・・・。」


「周りの優しさに甘えて、いつまでもグズグズしてないで欲しいんだけど。確か京香先生と付き合って、もう10年でしょ?それでまだプロポ-ズしないなんて、信じられない。」


「い、いや・・・京香は今年から、担任も持って、仕事に乗ってるから、邪魔しちゃ悪いと思って・・・。」


なんで、俺、こいつに怒られてるんだと思いながら、尚輝が言い訳がましい言葉を口にすると


「はぁ?なんで尚輝っちがプロポ-ズすると、京香先生の仕事の邪魔することになるのよ?」


畳み込むように、問い返す千夏。


「そ、それは・・・。」


「うわぁ、尚輝っち、考え方が昭和~。信じられない。」


「お、おい、葉山・・・。」


すっかりタジタジになる尚輝。


「尚輝っちがはっきりしないから、ひょっとしたらまだ、ワンチャンあるのかもとか、こっちも妙な妄想にとりつかれちゃうの。その尚輝っちの優柔、ホントに迷惑。」


「・・・。」


「とにかくさ、尚輝っちからのプロポ-ズ、京香先生も絶対に待ってるよ。なんて言ったって、女は好きな人から素敵な言葉でプロポ-ズされるのが、憧れなんだからね!じゃ、お疲れ様でした。」


散々まくし立てた挙句に、立ち去る千夏の後ろ姿に


(男のプロポ-ズを女は待ってるだけっていうのも、昭和の考え方じゃねぇか・・・?)


という疑問は、もちろん口に出せなかった尚輝の胸に


(そうか・・・もう10年になるんだよな・・・。)


そんな思いが、改めて浮かんでいた。
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