Far away ~いつまでも、君を・・・~
帰宅の途に着き、1人自宅に向かって、ハンドルを握る尚輝。今、彼の胸には、改めて京香との日々が去来していた。


高校1年の時からクラスメイトだった京香とは、同じくクラスメイトだった京香の幼なじみ、西川秀を通じて親しくなった。


当時、彩に懸命にアタックし続けていた尚輝を、京香は応援してくれた。だが、結局その思いは届かず、ガックリ肩を落とした尚輝に、京香は一転、自分への思いを、打ち明けて来た。


「ずっと好きでした、二階くんのことが。」


それは思ってもみなかった告白だった。2人はその時17歳、季節は初夏からそろそろ梅雨へと移り行こうとしていた。


それから、本当に今年で丸10年。途中、京香が都会の大学に進学、院にも進んだから、6年間も離れ離れの時期があった。しかし、2人はそれを乗り越え、帰郷した京香が自分を追いかけるように母校颯天高校に赴任して来て、同僚になってから今年で3年目。2人は順調に愛を育んで来た。


気が付けば、お互い27歳。結婚を意識しても不思議じゃない年齢になった。いや、具体的な話は、ほとんどしてないが、それは2人の中では既定路線とも言ってよかった。


(京香といずれ結婚するのは、当然だと思ってるし、あいつもそう思ってくれてるのは、たぶん間違いない。だけど、そう言うことって、阿吽の呼吸とかで決めたりするものじゃねぇよな・・・。)


今年から担任を持って、張り切る彼女の邪魔をしたくないという気持ちは確かにあった。でも千夏に「考え方が古い」と怒られてしまったように、結婚しても別に京香が仕事を辞めなければならない理由はどこにもないし、当然京香は辞めるつもりもないだろうし、尚輝も辞めて家庭に入って欲しいなんて気はさらさらない。結婚が京香の教師としてのキャリアの障害になることも絶対にないはずだ。


(とすれば、後は俺達の気持ちの問題だけだよな。)


そんなことに今更ながら、教え子の千夏の言葉から気が付かされて、尚輝は思わず苦笑する。


(俺は京香と一緒になりたいと思っているか・・・?)


そう自問した尚輝、答えは考えるまでもなくイエスだ。


(だとしたら、やっぱり俺が動かなきゃいけないよな。タイミングはやっぱり今度のクリスマス・・・。)


ベタかもしれないが、まもなく11月を迎える今の時期で考えれば、それはベストのように思える。


(準備を始めないと、間に合わねぇじゃん。)


そう思い至った尚輝は、急に緊張してきた。どうしたらいいんだ・・・いろいろとシュミレ-ションをして行くうちに、ふと、ある人物の顔が脳裏に浮かんで来て、尚輝は思わず表情を暗くした。
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