Far away ~いつまでも、君を・・・~
「行ってらっしゃい。」


まず父が、続いて母が出勤して行くのを玄関先から見送った彩は、空を見上げると


(いい天気、絶好の洗濯日和だ。)


と思ってすぐに


(ア〜ァ、私もう、発想も視点も完全に主婦目線になってる・・・。)


と首を2、3度横に振りながら、中に入った。


故郷に帰って来た時の太陽は、旧盆真っ最中でギラギラしていたが、今はもう晩秋と言ってもいい。帰って来てからすぐの頃、遥に


「今の私は主婦。」


なんて、冗談半分で言ったものだが、それから早2ヶ月半、今の彩は日々の生活はまさに主婦そのもの。


(愛しの旦那様の為に、家事に勤しんでいるんならまだしも、これじゃ、ただのニートだよね・・・。)


思わず苦笑いを浮かべながら、彩は洗濯機の前に立つ。


少しノンビリしても、罰は当たらないよね。そんな気持ちでスタ-トした約10年ぶりの実家生活。当初は遥を初めとした旧友たちからの誘いもあったが、彼女たちにも仕事があり、家庭があり、それぞれのプライベ-トもある。


いつしかそんなお誘いもなくなり、情報誌をめくっても、これという就職先やバイト先は見当たらず、またどこで誰が仕入れて来るのか、彩が帰郷した経緯が面白おかしく語られ、噂になるのが鬱陶しくて、外出が億劫になり、結果日常の買い物、用足し以外の外出はほとんどしなくなってしまった。


「あんた、このままじゃ本当に引きこもりだよ。この際だから、永久就職の口でも探してごらん。」


見かねて、母親はそんな言い方で、見合いを勧めてくる。それも1つの道か、と彩も思わなくはないが、今自分が、恋愛とか男女交際ということに、やたらネガティブになってしまっているという自覚はあり、そんな状態ではやっぱり意味がないと、重い腰は上がらない。


かくして、何の刺激も目標もなく、ただ流されて行くだけの日々が続く。このままではいけないという思いはあっても、それを変えようと行動を起こすパワ-が、今の彩にはなかった。


洗濯と掃除を終え、残り物で昼食を摂った後、パソコンを開いて、求人案内を検索してはみたものの、ほとんど身も入らず、結局ものの10分もしないうちにパソコンを閉じてしまう。


(私って、こんなにダメダメ人間だったんだ・・・。)


思わず大きくため息をついてしまった時、傍らのスマホが鳴り出した。


(こんな時間に誰だろう?)


とディスプレイを見ると


(えっ?)


そこには、意外な名前が表示されていた。
< 275 / 353 >

この作品をシェア

pagetop