Far away ~いつまでも、君を・・・~
『あ、よかったぁ。番号変わってなくて。お久しぶりです、先輩。』


スマホから聞こえて来た声。それは、もう2度と聞くことはないだろうと思っていた声だった。


『今、電車を降りたところなんです。』


「えっ?」


『思った以上に田舎・・・いえ、のどかな所ですね。』


「・・・。」


『これから先輩のお宅にお邪魔したいんですけど、道教えていただけますか?』


流れてくる屈託のない声を、唖然として聞いていた彩は、結局、その声の主、相川静が到着したという自宅の最寄り駅まで、迎えに行かざるを得なくなった。


「お邪魔しま~す。」


やがて、駅のロータリ-に滑り込んだ車の助手席に、なんの躊躇もなく乗り込んで来た静を、まだ信じられないような思いで、彩は見つめる。


「久しぶりに、電車いっぱい乗っちゃいました。やっぱり遠いですね。でも楽しかったです。」


彩の戸惑いなど知らぬげに、笑顔の静。車をスタ-トさせながら


「どうしたの、急に?」


彩は当然の問いを発する。


「気にしないでください。可愛い後輩が、先輩のご機嫌伺いに来ただけですから。」


ニコニコ顔の後輩の答えは、ツッコミどころ満載だが


「とりあえず来るなら、せめて事前に連絡よこしなよ。直接来て、私と連絡取れなかったら、どうするつもりだったの?」


まずは疑問その1を問いただす。


「だって事前に連絡したら、彩さん、きっと私が来るの、断ったでしょ?だから思い切って、直接来ちゃったんです。連絡付かなかったら、その時は、そこら辺を観光して帰ろうかなって。」


(さすがにこの子、私と気まずい関係だったことは自覚してるんだ・・・。)


ということはわかった彩だが、だとすれば、今日のこの突然の来訪は、やっぱり理解できない。


そうこうしているうちに、自宅に到着。彩は、ちゃんと掃除しておいてよかったと思いながら、静を上げる。両親に無断でとは思ったが、押しかけられてしまった以上、拒むわけにもいかなかった。


「いいおうちですねぇ。なんか『実家』って感じで・・・憧れちゃいます。」


「そう?確かに都会の家に比べたら、広さだけはあるからね。」


「そうだ。彩さん、これ、先輩が好きだったウチのホテルのレストランのケーキです。よろしかったらみなさんで。」


「本当に?懐かしいな、ありがとう。じゃ、さっそくいただこうか。静、とりあえず、座ってて。」


そう言って、彩はキッチンに入って行った。
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