Far away ~いつまでも、君を・・・~
いただいたケーキと紅茶をお盆に乗せ、彩が食卓に戻って来ると、静はキョロキョロと物珍しそうに、部屋を見回していた。


「いただいた物で悪いけど。」


「いえ、ありがとうございます。」


2人がホテルベイサイドシティブライダル課の同僚だった約1年半。その関係はお世辞にも、良好とは言えなかった。そんな2人が今、自分の実家で向かい合って、ケーキをつついているという図が、彩はなんとも不思議な気持ちだった。


「やっぱり美味しいね。」


「ですよね。ウチのコック長、言ってました。ウチのケーキがここまで美味しくなったのは、彩さんのお陰だって。彩さんがいつも遠慮、忌憚のない意見を言ってくれたから、こっちも負けないように、必死で改良したって。」


「そっか・・・私も生意気だったんだな。申し訳ないことをした。」


そんなことを話しながら笑い合う2人。こんな雰囲気で向かい合うのは、ひょっとしたら初めてかもしれなかった。


「どう、みんな元気?」


「相変わらずバタバタやってます。彩さんが居てくれたらなぁって、みんな言ってますよ。」


「またまた。」


「本当です。単純に頭数が1人減って大変なのに、よりによってエースが抜けたんですから。」


「どうしたの?今日は随分持ち上げてくれるじゃない。」


彩が笑いながら言うと


「彩さん!」


静は表情を改め、真っ直ぐに彩を見た。


「今日は突然押し掛けてすみませんでした。どうしても彩さんに会いたくて、そしてどうしても彩さんに謝りたくて・・・。」


「静・・・。」


「彩さん、ごめんなさい。」


呆気にとられる彩の前で、静は深々と頭を下げる。


「彩さんは教育担当として、一所懸命に私の面倒を見て下さったのに、私、生意気なことばかり言って、反抗ばかりして・・・本当にすみませんでした。」 


「・・・。」


「彩さんがいなくなられてからの私は、もうボロボロなんです。」


「静・・・。」


「彩さんが担当してらしたお客様、私も何組か引き継ぎましたけど、何度もお叱りを受けました。あなたは廣瀬さんと全然違うって。」


そう話す静の目からは、いつの間にか涙が溢れ出していた。
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