Far away ~いつまでも、君を・・・~
5分毎に次のペアがスタ-トして行く。こんなの平気平気と笑顔で出掛けて行くペアもあれば、よりにもよって男同士のぺアとなり、仏頂面で出て行く者もいる。


この肝だめし、実は途中での仕掛けは、何も用意されていない。基本的には、暗闇の中を歩くだけなのだが、しかし灯りがない、暗がりというのは、それだけで人を不安にする。


現に何かの拍子で起こる物音などに驚いたり、同行の女子に抱きつかれたくて、わざと脅かすような不届き者もいるようで、悲鳴や大声が遠くから聞こえてくる。


「町田先輩、ひどい。最低!」


トップバッターの町田は、どうやらその不届き者だったらしく、戻って来た途端にパートナーの女子からベソをかきながら、にらまれ


「すまんすまん。」


と頭を掻いている。しかしネタばらしは厳禁なので、それ以上は何も言えない。


10ペア、21名が順番に出発して行き、いよいよトリで、彩と尚輝のペアがスタート。


「尚輝、しっかりやれよ。」


同級生からの声援におぅと応える尚輝の横で、彩はムスッとした表情を隠さない。


「あの2人、大丈夫かな?」


「さぁ?」


町田と遥は心配そうに、顔を見合わせている。


懐中電灯を手に尚輝が先導する形で歩く。


「彩先輩、なにかあったら、俺がしっかり守りますから。」


振り向いてそんなことを言ってくる尚輝に


「それは、どうも。」


素っ気なく答える彩。


「そうだ、手を繋ぎましょうか?」


「無理。」


即答で拒否する彩。


「でも、本当に真っ暗ですね。何か出て来そうですよ。」


「なに、脅かしてるつもり?」


「えっ?」


「言っとくけど、私、このコース下見してるし、この先がどうなってるか、わかってるから。」


「でも、それは昼間でしょ?」


「そうだけど。」


「夜は何が起こるからわからないじゃないですか?」


と言いながら振り返った尚輝は、ニヤリ。それには一瞬たじろいだ彩だが


「バカ。例え、何かあったって、あんたにしがみつくような無様な真似は絶対にしないから。」


と言い返す。


「そうですか、わかりました。でも先輩。」


「うん?」


「別に無理矢理何かしたりしませんから、せめて横歩いて下さいよ。とにかく暗いんだから、絶対に何にも起こらないって、言い切れないでしょ?俺達、一応ペアなんだから。」


そう言った尚輝の顔を少し見た彩は


「わかった。」


と言って、彼の横に並んだ。
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