Far away ~いつまでも、君を・・・~
夏のOB・OG会以来、約3か月ぶりに彩が母校を訪れたのは、それから数日後のことだった。卒業してから、平日に母校に来るのは初めてで、活気にあふれ、華やいだ校舎の様子を久しぶりに目の当たりにして、彩は懐かしかった。


早速道場に顔を出すと


「あっ、先輩。お待ちしてました。」


尚輝が声を掛けて来た。


「ごめんなさい、お邪魔します。」


遠慮がちに中に入って来た彩に、部員たちはいっせいに礼をする。


「練習中にすみません、構わず続けてください。」


と声を掛けると彩は静かに尚輝に近付く。


「ごめん、もうちょっと遅く来るつもりだったのに・・・みんなの邪魔しちゃったよね。」


「いえいえ、部員たちは伝説の廣瀬彩先輩に会えるって、全員心待ちにしてましたよ。」


「伝説って・・・またあんた、大げさに話盛ったでしょ。」


部員の前では、顧問に対する言葉遣いを心掛けるつもりが、思わず口が滑る。


「そんなことないですよ。俺は事実をアイツらに話してるだけです。」


そう言って笑う尚輝に


「とにかく・・・この度はOB・OG会の役員に就任することになりました。二階先生には、いろいろお世話になることになりますから、どうぞよろしくお願いします。」


気を取り直して、挨拶をする彩。


「こちらこそ、よろしくお願いします。でも先輩に『二階先生』なんて呼ばれて、敬語使われると照れちゃうな。」


なんてニヤニヤして言い出す尚輝に


「ということで、今日はご挨拶まで。じゃ、失礼します。」


彩はやや憤然としながら、立ち去ろうとする。


「ちょっと待ってくださいよ。せっかくだから、部員たちの練習、見てってやって下さいよ。本当にみんな彩先輩が来るのを楽しみにしてたんですから。」


慌てて、引き留める尚輝をちらりと見て、彩は仕方ないなと言わんばかりの表情で、足を止めた。


熱心に練習に励む後輩たちの姿を見て、彩は微笑ましい気持ちになると同時に、やはりかつての自分や仲間たちの姿を重ね合わせる。甘酸っぱい気持ちが沸き上がって来るが、やがてそれは1人の男の記憶に結びついて、彩の心を途端に重くする。


やがて休憩時間になると、待ちかねたように部員たちが彩を取り囲む。彼らの言葉や態度から、自分が来るのを楽しみにしていたという尚輝の言葉は満更ウソではなかったことに気付いた。


「廣瀬先輩は、千夏コーチに抜かれるまで、インハイ予選のウチの部の女子の最高記録保持者だったんですよね。」


「すごいなぁ~。」


なんて目を輝かせながら言われると、照れ臭くはあったが、悪い気はしなかった。
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