Far away ~いつまでも、君を・・・~
⑧
「そうだよ、今の感じ。肩に力が必要以上に入ってなかったから、よかったよ。」
「はい、ありがとうございます。」
彩に声を掛けられた部員は嬉しそうに答えると、また順番を待つ列に並んで行く。
彩が弓道部に顔を出すようになってから、ほぼひと月が過ぎた。現役の頃は、道場ではストイックで、やや近寄り難い雰囲気を醸し出していた彩だが、今はにこやかに後輩たちに声を掛けている。
週に3日、彩はOB・OG会からの協力指導員として、部を訪れている。報酬については辞退するつもりだったが、それはかえって拙いらしく、形だけの金額を会から受け取っている。
「先輩が前に進む原動力はやっぱり弓道。」
と尚輝に言われたが、その通りだったなと実感する。正直、最初はどうしても斗真のことが頭に浮かび、辛い思いを抱くこともあったが、久しぶりに弓に触れ合う日々、そして若い後輩たちと触れ合い、共に汗を流す時間が、いつしかそんなものを吹き飛ばしてくれていた。
「私さぁ、子供の頃に見たドラマがきっかけで、ずっとホテリエに憧れてたから、就活もほぼホテル1本だったんだけど、今にして思うと、尚輝や京香ちゃんのように、教師もありだったかなぁ。」
ある日、そんなことを言い出した彩に
「そうですね。先輩なら生徒に慕われる、いい教師になったでしょうね。」
と尚輝が返すと
「あんたは本当に口がうまくなったね。」
と言いながら、彩が笑う。その笑顔を見て
(よかった・・・。先輩に笑顔が戻った。俺は先輩には、いつもああして笑っていて欲しい。人目を憚り、暗く沈んで、思い悩む彩先輩なんか俺は見たくない。)
と尚輝は心から思う。
その日も部活が終わり、部員たちを送り出すと
「じゃ、今日もこれから少し練習させてもらうよ。」
彩が尚輝に告げる。練習終了後、30分程、彩は自分の練習をするのが、恒例になっていた。
「わかりました。じゃ、俺はその頃戻ってきます。」
「あんたは練習しなくていいの?同じ試合に出るんでしょ?」
「大丈夫です。俺は他の日でも時間取れますし、ちょっと職員室戻ってやることがあるんで。」
「そっか。じゃ悪いけどよろしく。」
「はい。」
笑顔でそう答えると、尚輝は道場を出た。
「はい、ありがとうございます。」
彩に声を掛けられた部員は嬉しそうに答えると、また順番を待つ列に並んで行く。
彩が弓道部に顔を出すようになってから、ほぼひと月が過ぎた。現役の頃は、道場ではストイックで、やや近寄り難い雰囲気を醸し出していた彩だが、今はにこやかに後輩たちに声を掛けている。
週に3日、彩はOB・OG会からの協力指導員として、部を訪れている。報酬については辞退するつもりだったが、それはかえって拙いらしく、形だけの金額を会から受け取っている。
「先輩が前に進む原動力はやっぱり弓道。」
と尚輝に言われたが、その通りだったなと実感する。正直、最初はどうしても斗真のことが頭に浮かび、辛い思いを抱くこともあったが、久しぶりに弓に触れ合う日々、そして若い後輩たちと触れ合い、共に汗を流す時間が、いつしかそんなものを吹き飛ばしてくれていた。
「私さぁ、子供の頃に見たドラマがきっかけで、ずっとホテリエに憧れてたから、就活もほぼホテル1本だったんだけど、今にして思うと、尚輝や京香ちゃんのように、教師もありだったかなぁ。」
ある日、そんなことを言い出した彩に
「そうですね。先輩なら生徒に慕われる、いい教師になったでしょうね。」
と尚輝が返すと
「あんたは本当に口がうまくなったね。」
と言いながら、彩が笑う。その笑顔を見て
(よかった・・・。先輩に笑顔が戻った。俺は先輩には、いつもああして笑っていて欲しい。人目を憚り、暗く沈んで、思い悩む彩先輩なんか俺は見たくない。)
と尚輝は心から思う。
その日も部活が終わり、部員たちを送り出すと
「じゃ、今日もこれから少し練習させてもらうよ。」
彩が尚輝に告げる。練習終了後、30分程、彩は自分の練習をするのが、恒例になっていた。
「わかりました。じゃ、俺はその頃戻ってきます。」
「あんたは練習しなくていいの?同じ試合に出るんでしょ?」
「大丈夫です。俺は他の日でも時間取れますし、ちょっと職員室戻ってやることがあるんで。」
「そっか。じゃ悪いけどよろしく。」
「はい。」
笑顔でそう答えると、尚輝は道場を出た。