Far away ~いつまでも、君を・・・~
職員室に戻ると、既に人影はまばらになっていたが、京香はまだ残っていた。


「お疲れ。彩さんはまた練習?」


「ああ。」


「熱心だね。」


「あの人は、本当に弓道が好きなんだよ。」


そう答えると、尚輝は自分の机に座り、書類を取り出す。そして、頃合いを見計らって、道場に戻った尚輝が扉を開いて、一歩中に入った途端、彼は思わず足を止めた。


視線の先には、彼が入って来たことにも気付かず、弓を構える彩の姿があった。その集中力と的を見据える凛々しい姿は、尚輝に遠く淡い記憶を蘇らせた。


(先輩・・・。)


声もかけられず、息を呑んで、その姿を見つめていると、彩の方が気が付いて、彼を振り返った。


「あ、ごめん。つい集中しちゃって。時間オーバ-だよね。」


申し訳なさそうに言う彩に


「大丈夫です、お疲れ様です。」


尚輝は笑顔で答える。


「現役時代の迫力が戻ってきましたね。」


「そう?だといいんだけど。」


そう言って、彩も笑う。


「来週は、学期末試験の前で部活は休止ですから、思う存分練習してください。」


「本当にいいの?練習もないのに、私が来て。」


「大丈夫です。校長にはちゃんと了解を取ってますから。」


「本当に何から何まで悪いね。でもさ、お陰で今、充実してる。ついこの間までの引きこもり生活が嘘みたいだよ。ここに来るのが楽しみ過ぎて、就活がおざなりになって、親には怒られてるけど。」


「いいじゃないですか。今は次のステップの為に、エネルギ-を溜める時期ですよ。先輩なら、その気になれば、就職なんて、すぐに決まります。」


「優しいこと言ってくれるじゃない。じゃ、今日もありがとう。お先にね。」


「はい、お疲れ様でした。」


軽やかな足取りで、道場を後にする先輩を見送り、最終確認と戸締りをすると、尚輝も道場を出た。着換えて、下校をして、いつものスーパ-で、待っていた京香を拾ったのはそれからすぐのことだった。


行きつけのレストランで夕食を摂りながら


「試験問題の準備、終わった?」


「ああ。問題作ってから、まだ出題の中に授業でやり忘れてたところがあったのに気付いて、慌てて今日やった。」


「えっ~?それじゃ、生徒にバレバレじゃん。」


「まずったよ。」


なんて会話を交わしながら、仕事帰りのデートを楽しんだ。
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