Far away ~いつまでも、君を・・・~
期末考査が終わると、授業はまだあるものの、校内は一気に休みモードになるのは、致し方ないところ。だが、それは1、2年生だけで、受験まであと1ヶ月に迫っている3年生の表情は、いよいよ厳しさを増して来る。


「去年の私たちも、今頃はあんな感じだったのかな?」


そんなことを言い出したのは千夏。


「ああ。教室で友達と談笑してる時なんかは、普段通りだったが、素に戻った時の緊迫感は、半端じゃなかったからな。俺たちだって、結構気を遣ったんだぞ。」


1年前を思い出しながら、尚輝は答えた。


「確かにピリピリしてたよなぁ。親とも、ささいなことでケンカしちゃったりしたし。」


「正直言えば、今年は気が楽だよ、俺も。」


彩が来校し始めると、ほぼ同時に大学の方が忙しくなった千夏は、今日が久しぶりの来校。彩と指導日が一緒になるのは初めてで


「とにかく彩さんに会えるのが楽しみ。」


とワクワク感を隠せない。


「先輩、完全に現役時代に戻った。キレッキレだからな。お前も負けるなよ。」


「えっ、本当?私、彩さんの現役時代を知らないから。余計楽しみ。」


「じゃ、今日の教職員ミーティングは、学期末だから、ちょっと長くなるから、部の方はよろしくな。」


「はい。」


千夏に後を託すと、尚輝は校舎に戻る。


この時期は、試験の採点や通知表に記載する、各生徒の評価付けと、一段と多忙になる。それだけに部活の方を任せられる彩と千夏の存在は、尚輝には大いに有難かった。


そして長い会議が終わり、尚輝が道場に顔を出すと、なにやら歓声が聞こえて来る。何事かと思えば、休憩時間に彩と千夏が試合をしていて、それを部員たちが興味津々で見つめているところだった。


「どうなってる?」


尚輝がそっと、近くに居た部員に声を掛けると


「あっ、先生。3本ずつの勝負なんですけど、廣瀬先輩も葉山先輩も1歩も引かなくて。これから最後の一矢です。」


集中している2人の邪魔にならないように、部員も小声で答える。


(今の2人じゃ、3本じゃ決着付かないだろうな。)


そんな思いで尚輝が眺めていると、予想通り、2人とも当たり前のように三矢目を的中させ、部員たちからは大きな拍手が巻き起こる。


「去年のお正月のリベンジならずかぁ。」


「ありがとうございました。今度は五矢勝負でお願いします。」


彩は千夏とそんなことを言い合って笑顔を交わす。


「みんな、ごめんね。さ、練習再開しよ。」


「はい!」


彩の言葉に、部員たちが動き出した。


(これでいいんだ。)


そんな彩の姿に、尚輝は改めて頷いていた。
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