Far away ~いつまでも、君を・・・~
こうして2学期は無事に終業式を迎え


「と言うことで、もういくつ寝るとお正月の季節だ。みんな、よいお年をな。また新年に元気で会おう。」


渡された通知表を手に、一喜一憂している生徒たちにそう告げると、尚輝は教室を離れた。


部活や新学期の準備はあるが、教師たちも少し息をつける時期になった。この日、仕事を終えた尚輝と京香は、いつもの車ではなく、駅に向かって歩き出した。これから、彼らにとって親友であり、幼なじみである西川秀と待ち合わせをしていた。


久しぶりに忘年会兼ねて飲もう、そう約束したから、今日は車を避けた2人。待ち合わせの店に先に到着したので、一足先にお疲れ様と乾杯を。ここまでずっと一緒に来て、ずっと話して来たのだが、少しアルコ-ルが入ると、なぜか固い話になって行き


「中学までと違って、高校の美術の授業は選択で、美術が好き、やりたいっていう生徒が受けるんだから。生徒たちのやる気を削ぐようなことは絶対にダメなんだよ。それぞれの作品には、それぞれの個性があるからね。それをキチンと評価してあげないと。何と言っても、絵は芸術なんだから、1つの物差しで測るようなことをしちゃいけないんだよ。」


と早くも顔を赤くした京香が力説していると


「お前たち、なんでこんなところで教育論を戦わせてるんだ?」


と突っ込みながら、秀が登場。年もだんだん押し迫って来て、信金勤めの秀は、得意先回りに駆け回る日々で、すっかり待ち合わせ時間に遅れてしまったと頭を下げるが


「うん、真面目に仕事していて結構。私たちももう20代後半、少しずつ責任も重くなって来てるし、日々仕事に邁進しないと。さぁ飲め飲め。」


京香はそう言って、秀のコップにビールを注ぐ。


「なんか、えらい鼻息だな。なんかあったのか?」


「何にもないよ、私は今、仕事が楽しくてしょうがないの。だからあんたも頑張ってるって聞いて嬉しかったんだよ。」


そう言って、京香は秀の肩をポンと叩いた。


こうして賑やかに3人で呑んでから、数日後。この日の尚輝と京香は、全く違う雰囲気の中にいた。今日はクリスマスイヴ、恋人たちの日、恋人たちの夜だ。


この日、2人は地元を離れ、ライトアップで有名なテーマパ-クを訪れていた。見渡す限り、カップルだらけの園内で、2人は国内最大とも言われるイルミネ-ションを寄り添って眺めた。


「尚輝、ありがとう。ここにあなたと来られて、あなたとこの綺麗な眺めを見られて、本当に嬉しい。」


そう言って寄り添ってくる恋人を、尚輝は強く抱きしめる。しかし、彼は今日、ずっと計画していたサプライズを密かに延期していた。


「私は今、仕事が楽しくてしょうがないの。」


先日そう言った時の、京香の輝いた表情が、尚輝にそれを躊躇させたから。
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