Far away ~いつまでも、君を・・・~
年が明けた。ドライブを兼ねて、隣県の神社に初詣に行った尚輝と京香。2人が付き合ってるのは結構ばれてると、千夏には言われたが、大っぴらにデートをするのは、やはり憚れる。


並んで手を合わせ、最後に一礼して、神前を離れた2人。


「今年は何をお祈りしたんだ?」


我ながら、お約束の問いだと思いながら、尚輝が尋ねると


「うん・・・ま、いろいろ。」


と答えた京香の表情と声音に、何か陰のような引っかかるものを感じて、思わず彼女の顔を見つめるが


「どうしたの?さぁ、行こうよ。」


京香は笑顔でそう言うと、尚輝の腕を取る。


その後の時間は、いつもの通りに楽しいデートの時間が過ぎて行く。夕陽を眺められるレストランで夕食を摂りながら


「試合、もうすぐだね。」


「ああ。」


「明日、学校で練習するんでしょ?」


「明後日はもう仕事初めだからな。その前に少し集中して練習したかったから、校長に頼み込んで、道場貸してもらった。」


「部員たちの手前、あんまりみっともない姿晒せないからね。下手な成績なら、弓道部顧問の名折れだよ、大丈夫?」


「まぁ、ぼつぼつと頑張るよ。」


「なんか頼りないな。でも尚輝の試合、応援するなんていつ以来だろ?久しぶりだから、私も気合入れて応援するから、とにかく頑張ってよ。」


「はい、よろしくお願いします。」


そんな会話をしながら、笑顔を交わした2人。それから時間はあっという間に流れ、2人が乗った車が、京香の家の前に着いた時、時計の針は午前零時を過ぎていた。


「尚輝、ありがとう。気を付けて帰ってね、じゃ、おやすみ。」


「ああ、おやすみ。」


あやすみのキスを交わして、走り去る彼氏の車を見送る彼女。それはごくありふれた自然な恋人たちの姿だった。


(考えすぎだったのかな?)


帰路につきながら、尚輝は考えていた。初詣を終えた直後に、京香が一瞬浮かべた(ように見えた)複雑そうな表情が、ずっと引っかかっていたのだ。その後の彼女は普段通りに楽しそうにしていたし、デートの最後には、情熱的に愛し合った。だが・・・。


(そう言えばあいつ、俺に何をお祈りしたの?って聞き返して来なかった・・・。)


ふとそう思い至った。別に特に意味のないことかもしれない。しかし、なにか引っ掛かるものを尚輝は感じていた。
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