Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌日の三連休最終日、彩は弓道部OB・OG会長を訪ねた。就職が決まり、今週一杯で事実上、コーチを退任せざるを得なくなったことを報告する為だった。


前回と同じように、客間に案内された彩が、経緯を報告すると


「えっ、そうなの?」


と会長に驚かれた。


「随分急ね。」


「はい。正直、正社員の就活は厳しくて、仕方なく年末にある会社に派遣登録したら、年明けすぐに連絡がありまして。先日、派遣先の企業さんの面談も無事終わりましたので。急なことで、本当に申し訳ありません。ですが、今年度一杯は、不定期にはなりますが、可能な限り練習には参加いたしますし、会の役員の方は、引き続き務めさせていただきますので、どうかよろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げた彩を、会長は難しい顔で見つめている。


(せっかくOB・OG会からの協力要員という形にしてもらってまで、学校に話を通してもらったのに、自分の試合が終わった途端、「はい、さようなら。」みたいな感じになっちゃって。やっぱり会長にしたら面白くないよね・・・。)


会長の表情に、彩が申し訳ないと思っていると


「それってもう、絶対にお断り出来ない話?」


会長は尋ねて来る。


「もちろんお断りは出来るはずですが、やはりかなり失礼になると思いますので。」


彩が答えると


「ごめんなさいね。」


いきなり謝られて、彩はきょとん。


「あなたにちゃんと話しておけば、よかったんだけど・・・。」


と前置きした会長は


「ホテルクラウンプラザは知ってるわよね?」


と言葉を続ける。知ってるどころではない、ホテルクラウンプラザは、颯天高校弓道部OB・OG会が毎夏の総会で、学校での親善試合のあと、懇親会で使っている彩にとっても、馴染みの深いホテル。


「私、実はあなたを、クラウンプラザに推薦してたのよ。」


「えっ?」


慌てて聞き返す彩。


「私、結婚するまで、あのホテルに勤めてて、夫は今でも、現職で、まぁそれなりのポジションに就かせてもらってる。だから、自分で言うのもなんだけど、まぁそれなりに顔が効くのよ。」


「そうなんですか?」


あまりにも意外な会長の言葉に、彩は驚きを隠せない。
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