Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌朝、指定された時間にホテルクラウンプラザを訪れた彩は、いきなり人事部長との面談に臨んだ。


「お待ちしてました。当ホテルのOGでもある専務の奥様からのご推挙ですから、お目に掛かるのを楽しみにしてました。」


笑顔でそう言われた彩は


(えっ、会長の旦那さんってこちらの専務だったの?)


と今更ながら驚いていた。すぐに質疑応答に入り、矢継ぎ早の質問に、滞りなく答えていく彩に、人事部長は満足げに頷くと


「最後になりますが、ベイサイドシティさんでは、ウェディングプランナ-として、活躍されていたそうですが、当ホテルとしては、フロントでの勤務をと考えてます。よろしいですか?」


と言われて、またまたビックリ。よろしいもよろしくないも、採ってもらえれば、何でもやるのは当たり前だし、ましてフロントはもともとやりたかった仕事だ。


「はい。是非よろしくお願いします。」


彩は力強く答える。


「では、正式な手続きは後日ということになりますが、この面接で内定ということにいたします。勤務は来月1日からということで、よろしいですね?」


強力なコネクションがあるとは言え、まさかの即内定の通告に、彩は


「は、はい。ありがとうございます。」


と返事をするのがやっとだった。


「詳細は担当の者から、連絡させます。では本日は、ご苦労様でした。」


人事部長の言葉に、彩は夢見心地で一礼した。


1週間後、健康診断にも問題はなく、彩は入社手続きを終え、正式にホテルクラウンプラザの一員になった。手続き後、わざわざ専務に呼ばれて、直接激励を受け、恐縮しながら退出した彩は、電話で会長に無事に手続きが終了したことを報告し、改めてお礼を述べた。


時計を見ると正午を少し過ぎたところ、学校はそろそろ昼休みの時間だ。彩はホテルを出て、颯天高に向かった。


校門をくぐると、めざとく彼女を見つけた弓道部員数人が


「あっ、彩コーチ!」


とバラバラと駆け寄って来る。


「ひょっとして、ホテルからの帰りですか?」


「うん。入社手続きだったの。」


「じゃコーチもいよいよまたホテルマンですね。」


「かっこいい~、憧れちゃうなぁ。」


そんなことを言って来る部員たちに、彩はニコニコと応じていたが


「二階先生は?」


と尋ねる。


「たぶん花壇です。」


生徒の返事に、彩は頷いた。
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