Far away ~いつまでも、君を・・・~
花壇に向かうと、やはり尚輝は花に水をあげていた。


「先生。」


生徒の手前、当然呼び捨てには出来ず、彩がそう呼び掛けると、振り向いた尚輝は


「終わりましたか。」


「うん、お陰様で。」


「なら、よかった。」


そう言って笑顔になる。その彼にゆっくり近づいた彩は


「会長に私のこと頼んでくれた時、絶対にホテルに損はさせないって、言ったんだって?」


尚輝の顔を見て言った。


「はい。」


「あんた、私の仕事してる姿なんて、ただの1度も見たことないじゃない。」


「見なくったってわかります。」


「えっ?」


「彩先輩の仕事ぶりがどんなか、俺には見なくってわかります。」


そう言った尚輝の顔を、少し見つめた彩は


「相変わらず買いかぶってるね、私のこと。」


呆れたように言うと、尚輝はフッと笑顔を見せる。


「ありがとう。」


「先輩?」


「ハナッから諦めて、面接申し込むのも尻込みしてた県下有数のホテルにさ・・・あんたの過剰宣伝のお陰で、なんとか潜り込めた。」


「俺のハッタリだけで、そんなところに入れるほど、世の中、甘くはないでしょ。」


そう言い合った2人は、しばしお互いを見る。


「帰って来てから、何から何まであんたの世話になっちゃったな。」


「そんなことないっすよ。」


「どうしてそこまでしてくれるの?」


「えっ?」


「昔、あんたを手酷く振った女の為に、なんでそこまでしてくれるの?」


そう言った彩に


「彩先輩の暗い顔、辛そうな顔は見たくないから。彩先輩には、いつも明るく輝いた表情でいて欲しいから。ただそれだけです。」


そう答えた尚輝に、彩はハッとした表情で彼を見る。そしてまた少し見つめ合う2人。


「だったら、もう大丈夫だから。」


やがて彩は言った。


「私はもう大丈夫。だから、あんたはもう、本当にあんたが大切にしなきゃいけない人のことだけを見ててあげて。」


その言葉に


「わかってます。もちろん俺もそのつもりです。先輩が本当に笑顔を取り戻してくれたのなら、俺も・・・俺たちも安心して、先に進めます。」


尚輝は笑顔を浮かべる。


「そっか。」


そう言って、花壇に目をやった彩は


「寂しいね、冬の花壇は。」


ポツリと呟くように言った。


「でも、冬来たりなば春遠からじです。もうひと月ちょっとして、今の3年生が卒業して行く頃には、綺麗な花が咲き始めてますよ。」


尚輝が答えると


「そうだね、今年の春は、どんな春になるのかな。楽しみだ・・・。」


そう言って、彩は少し遠い目をした。
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