Far away ~いつまでも、君を・・・~
こうして、再びホテリエとしての道を歩み出した彩は1週間の研修を経て、フロントに立った。前職のウェディングプランナ-もやりがいのある仕事だったが、紆余曲折の末、地元ホテルに再就職して、子供の頃、憧れたフロントクラ-クとして、お客の前に立った時には、さすがにこみ上げて来るものがあった。


「本当は永久就職してくれた方が、親としては安心なんだけど、今のあんたの目は、帰って来た頃とは別人だからね。まぁよかったよ。」


母親はそんな言い方で、彩の再出発を喜んでくれたし、遥は夫と子供と共に、ホテルを訪ねて来た。


「廣瀬にかこつけて、遥は、ここのレストランで食事したかっただけだろ。」


ぼやく町田に


「旦那が留守がちの家庭を守り、家事と子育てに奮闘する愛しい奥様に、たまには孝行してくれても罰は当たらないでしょ。」


遥はすました顔で言い返して、彩は思わず笑ってしまった。食事を終えた後、フロントに立つ彩の仕事ぶりを、しばし眺めていた遥は


「やっぱりホテリエだね、彩は。ホント、輝いて見える。」


と嬉しそうにつぶやき


「ああ、とにかくよかったな。」


その横で、町田も頷いていた。


ホテルに再就職したことは、ベイサイドシティ時代の同僚にも報告して、静は大喜びで祝福のLINEを送って来たし、優里からは


『よかったね、子供の頃からの憧れの仕事に就けて。私もそうだったんだけど、同じホテリエでもクラ-クとプランナ-はやっぱり違うから。最初は戸惑うことも多いと思うけど、彩なら大丈夫。だから頑張りな。』


と励ましの言葉が届いた。更に松下からは


『小耳に挟んだのですが、そちらのホテルからの問い合わせに、ウチの課長が元上長として、仕事ぶりも人柄も文句なしって、廣瀬さんのこと、答えたそうです。それを聞いて、なんか嬉しくなりました。』


というメッセ-ジが届き


(そうなんだ。課長だったんだ、私を推薦してくれたの・・・。)


彩は胸が熱くなった。


こうして、日々の業務に勤しんでいた彩だったが、迎えた休日、母校を訪れた。


プランナ-時代と違って、ローテ-ション制のフロントクラ-クは、土日全く休みが入らないことはなかったが、それでも平日休みの方が多いのは間違いなく、結果弓道部のコーチは続け易い環境になった。


「無理はしないで下さい。」


と尚輝は言ったが


「好きな仕事が出来て、休日は可愛い後輩たちの指導で弓が持てて、こんな贅沢な生活はないよ。」


彩は笑顔満開でそう答えた。
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