Far away ~いつまでも、君を・・・~
なんだよ、と言わんばかりの厳しい表情で振り向いた尚輝だが、ちょっとと言われ、そのまま校長室に呼び込まれる。こんな時に・・・と振り払いたいのを辛うじて堪えて、尚輝は校長に従った。
「その様子では、本当に何も聞かされてなかったみたいだね。」
扉を閉じ、2人になった途端に告げられた言葉。尚輝は校長の顔をキッと見る。
「菅野くんから退職の申し出があったのは、2月に入ってすぐだった。」
「2月?」
そんな以前に・・・尚輝は思わず唇を噛み締めた。
「こちらも寝耳に水の話だったから、驚いたよ。随分引き留めんだが、本人の意思が固くて、結局了承せざるを得なかった。彼女からは、君には自分で直接話すから、それまでは、黙ってるように頼まれてな。美術担当教員の後任を探さなきゃならなかったから、副校長と教務主任にだけは伝えたが、後は誰にも言わないまま、とうとう今日になってしまった。君には悪いことをした、済まなかったな。」
そう言って、校長は頭を下げるが、これは校長に謝られる話ではない。憮然として黙ったままの尚輝に
「私が話せるのはここまでだ。後は彼女と直接話せ、二階。」
校長は口調を変えて言った。彼は尚輝と京香が生徒として在学していた当時の教頭兼学年主任で、今年度から校長として、再び颯天高に赴任して来ていた。
「先生・・・。」
思わず当時の呼び方になった尚輝に
「菅野は屋上で、お前のことを待ってるはずだ。行って来い。」
校長も生徒を諭すように言った。
「はい、失礼します。」
一礼した尚輝は、今度こそ校長室を飛び出して行く。
校長に諭され、一瞬落ち着いた尚輝だったが、階段を駆け上がるにつれ、その心に様々なものがこみ上げてくるのを、どうすることも出来なくなっていた。
こんな大切なことを、10年間付き合った恋人である自分にただの一言の相談も報告もなく、1人で決め、今まで隠し通して、京香は何事もなかったかのように、自分と一緒に過ごして来た。そして、自分になにを言わせる暇も与えないで、自分から離れて行こうとしている。
(京香にとって、俺は、俺と過ごした時間は、その程度の価値しかなかったって事なのか・・・。)
激しい怒りと憤りが、そしてその裏腹の虚しさと悲しみが、今の尚輝を包んでいた。
「その様子では、本当に何も聞かされてなかったみたいだね。」
扉を閉じ、2人になった途端に告げられた言葉。尚輝は校長の顔をキッと見る。
「菅野くんから退職の申し出があったのは、2月に入ってすぐだった。」
「2月?」
そんな以前に・・・尚輝は思わず唇を噛み締めた。
「こちらも寝耳に水の話だったから、驚いたよ。随分引き留めんだが、本人の意思が固くて、結局了承せざるを得なかった。彼女からは、君には自分で直接話すから、それまでは、黙ってるように頼まれてな。美術担当教員の後任を探さなきゃならなかったから、副校長と教務主任にだけは伝えたが、後は誰にも言わないまま、とうとう今日になってしまった。君には悪いことをした、済まなかったな。」
そう言って、校長は頭を下げるが、これは校長に謝られる話ではない。憮然として黙ったままの尚輝に
「私が話せるのはここまでだ。後は彼女と直接話せ、二階。」
校長は口調を変えて言った。彼は尚輝と京香が生徒として在学していた当時の教頭兼学年主任で、今年度から校長として、再び颯天高に赴任して来ていた。
「先生・・・。」
思わず当時の呼び方になった尚輝に
「菅野は屋上で、お前のことを待ってるはずだ。行って来い。」
校長も生徒を諭すように言った。
「はい、失礼します。」
一礼した尚輝は、今度こそ校長室を飛び出して行く。
校長に諭され、一瞬落ち着いた尚輝だったが、階段を駆け上がるにつれ、その心に様々なものがこみ上げてくるのを、どうすることも出来なくなっていた。
こんな大切なことを、10年間付き合った恋人である自分にただの一言の相談も報告もなく、1人で決め、今まで隠し通して、京香は何事もなかったかのように、自分と一緒に過ごして来た。そして、自分になにを言わせる暇も与えないで、自分から離れて行こうとしている。
(京香にとって、俺は、俺と過ごした時間は、その程度の価値しかなかったって事なのか・・・。)
激しい怒りと憤りが、そしてその裏腹の虚しさと悲しみが、今の尚輝を包んでいた。