Far away ~いつまでも、君を・・・~
その思いを隠せないまま、力任せに扉を開いて、屋上に飛び込んだ尚輝の視界に、自分に背を向けて佇む恋人の姿が入る。


ハッとして振り向いた京香の目に、涙が浮かんでいるのに、思わず息を呑んだ尚輝だが


「いったい何考えてるんだよ。いきなり学校辞めて、海外留学って、どういうことだよ。俺、何にも聞いてねぇぞ!」


結局、身体の中に渦巻く激情を抑えることが出来ずに、怒鳴りつけるよう問い質してしまった。


「ごめん・・・。」


消え入るような声で、まずはそう言った京香。


「ごめんじゃわかんねぇだろ。こんな大事なことを俺に一言の相談も報告もなしに決めて、突然『はい、さようなら』っておかしいだろ?ちゃんと説明してくれよ!」


いつの間にか、京香との距離を縮めると、尚輝は両肩をガッチリ掴んで、彼女を見据える。


「ずっと迷ってたんだよ。」


その視線に耐えられないと言わんばかりに目を逸らした京香は、それでも懸命に言葉を紡ぎ出す。


「こう見えてもさ、私、院を卒業する時に担当教授に随分引き止められたんだよ。『このまま製作を続けるべきだ』って。でも、その時は自信がなくて、お断りして、こっちに戻って来た。」


「・・・。」


「でもさ、私がここに来て1年目の時に、一緒にやってた美術の講師が突然留学するって辞めちゃったじゃない。それ見た時、羨ましいなって思ったの。それ以来、ずっと悩んで悩んで、やっと結論が出たのが、今年に入ってから。それから教授に相談して、校長先生に報告して、準備に入ったの。今まで尚輝に隠してたのは本当に悪かったと思ってる。でもあなたに言ったら、絶対に反対されると思ったから・・・どうしても言えなかった。」


「・・・。」


「本当にごめんなさい、あなたには酷いことをした。裏切り者って言われても仕方ないと思ってる。でも・・・どうしても自分の夢を追い掛けたくなってしまったの。わかってって言う方が無理だと思うけど、許して下さい。」


そう言って、俯くように小さく頭を下げる京香。その仕草を見た尚輝は、彼女の肩から手を離すと、1つため息をついた。


「随分、見くびられたもんだな。」


「えっ?」


「京香にとって、絵がどれくらい大事なものか、俺も一応は、わかってるつもりだったんだけどな。」


「尚輝・・・。」


「お前が本当に自分の夢を追い掛けたいって言うなら、少なくとも頭ごなしに反対なんかするわけねぇだろ!」


その尚輝の言葉に、京香は思わず項垂れる。
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