Far away ~いつまでも、君を・・・~
その日の勤務を終え、彩が通用口を出ると


「廣瀬さん。」


という声に呼び止められ、振り向くと1人の男が立っていた。


「俺のこと、わかりますか?」


その言葉に、訝しげに男の顔を見た彩は少しして


「ひょっとして・・・西川くん?」


と声を上げる。そう呼びかけられた秀は


「よかった。覚えてて下さって。」


とやや頬を緩めた。高校の1年後輩の西川秀とは、学年も部活も違い、ほとんど交流はなかったが、尚輝とつるんでいるのはよく見かけた。


「久しぶりだね。どうしたの急に?」


秀の突然の登場に、彩は当然の問いを発する。


「実は・・・廣瀬さんにお渡ししたいものがあって。」


そう言って、秀は1通の封筒を差し出した。なに?と言うように少し小首を傾げて、自分を見た彩に


「京香から預かって来ました。」


秀は告げる。


「京香ちゃんから?」


思わず問い返した彩は、秀と京香が現在も近所に住む幼なじみだったことを思い出した。


「はい。京香から先輩の住所も電話番号も知らないから、これを渡して欲しいって頼まれて。」


確かに連絡先は交換してなかったが、今なら学校で直接手渡しすることも出来るはずだし、わざわざ秀に託さなくても・・・不思議に思いながら、彩はそれを受け取った。


「では、これで失礼します。」


渡し終わると、そう言って軽く頭を下げて、秀は踵を返した。


やや呆気にとられながら、その後ろ姿を見送った彩は、気を取り直すと歩き出した。


結局、彩がその手紙を開けたのは、自宅に帰り、食事を済ませて、自室に戻ったあとだった。


何気なく読み始めた彩だったが、顔色を変えるまで、そんなに時間は必要としなかった。


すぐに傍らの携帯で尚輝を呼び出す。スリーコール目で出た尚輝に


「今、京香ちゃんからの手紙を読んだんだけど、どういうことなの?」


噛みつくように尋ねた彩に


『わかりません・・・。』


返ってきた尚輝の声は力なかった。


「それで、京香ちゃんは今どこにいるのよ!」


彩は語気を強めるが、京香は下校後、一旦自宅に戻ったはずだが、もう既に見送りの家族と一緒に、出発してしまったようだ。自分は完全な入れ違いになってしまい、このあとどういうスケジュールで出国するのか、もう確認しようもないという返事に、ただ呆然とするしかなかった。
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