Far away ~いつまでも、君を・・・~
京香が去った翌日、彩が部活の指導の為に、来校した。練習が終わったあと、彩は尚輝に声を掛け、あるカフェで向かい合った。


「尚輝は本当に何も聞かされてなかったの?」


「寝耳に水とは、まさにこのことです・・・。」


やや詰問口調で尋ねた彩の前で、尚輝はガックリと肩を落とした。


「何も気が付かなかった尚輝にも、隠し通した京香ちゃんにも、思うところはあるけど・・・。」


ここで一瞬言葉を切った彩は、次に


「ごめん。」


と頭を下げた。


「先輩・・・。」


驚く尚輝に


「私がノコノコ帰って来たばっかりに・・・2人にとんでもない迷惑を掛けてしまった。お詫びの言葉も・・・ない。」


苦し気に彩は言う。


「そんなことはありません、彩先輩はなんの関係もありません。これは俺たちの・・・。」


「私のせい以外の、何者でもないじゃん!」


彩の声に、尚輝は俯く。重苦しい沈黙が、2人を包んだ。


「昨日、電話でも話したけど、京香ちゃんから手紙をもらった。」


それを破るように言うと、彩が手紙を取り出す。


「読んでみて。」


「いいんですか?」


「うん。」


彩が頷くのを見て、尚輝は手を伸ばして、その手紙を受け取った。そして開いた便箋には、見慣れた筆跡で、京香の思いが綴られていた。


彩が帰って来ると聞いた時、正直、今更寝た子を起こさないで欲しいって、心から思ってしまったこと。だから彩が居辛くなるよう、悪い噂を流したこと。自分1人がやったことではないけど、本当に申し訳ないことをしてしまったと謝罪したあと


『尚輝の心の中に、今でも本当にいるのは彩さん。だからいくら10年付き合って来たとしても、結局彩さんには勝てないことはわかってました。それでも私は尚輝が好きだから、なんとか彩さんと尚輝の間に立ちはだかろうとした。でもやっぱりそれは無理なことだって、この半年で私にはよくわかりました。尚輝の側に居るべきなのは、悔しいけど私じゃない。彩さんなんです。だから・・・私はこれ以上、自分の我が儘で、尚輝の、おふたりの邪魔をしたくありません。こんな形でいなくなるのは、卑怯と思われるかもしれないけど、私にはこうする以外の方法は見つかりませんでした。だから・・・尚輝のことをよろしくお願いします。』


そう綴られて、彼女に手紙は終わっていた。


「京香・・・。」


読み終わった尚輝は、彼女の名を呼ぶと、思わずその手紙を握りしめていた。
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