Far away ~いつまでも、君を・・・~
尚輝は、秀に誘われるまま、近くの公園に入った。


「小さい頃、ここで京香とよく遊んだんだ。それこそもう25年以上前の話なんだけどさ、本当にビックリするくらい、何にも変わってねぇ。」


そう言って笑った秀に


「なぁ、話ってなんだよ。俺、これから京香のご両親と・・・。」


尚輝はやや焦ったように言う。


「わかってるよ。だが、その前にちょっと俺と話をしようぜ。実を言えば、おじさんもおばさんも、京香がなぜ突然、海外留学に行ったのか。その本当の理由は知らないからな。」


「えっ?」


「俺たちもいつの間にかアラサーと言われる年齢だぜ。安定した仕事に就いて、10年付き合ってる彼氏がいて、そろそろ結婚報告かも・・・なんて思ってた娘から、いきなり全部振り捨てて、海外に留学したいなんて言われたら、普通の親は、ひっくり返るだろ。」


「・・・。」


「当然2人とも、バカなことを言ってるなくらいの勢いで大反対したんだが、京香は『今が最後のチャンス。どうしても自分の夢を追い掛けたい』って言い張って、一歩も引かない。」


「・・・。」


「完全に膠着状態に陥って、そこで何故か俺が呼ばれた。」


ここで秀は一瞬苦笑いを浮かべたが、すぐに表情を戻すと


「まさか、お前を蚊帳の外に置いたまま、話が進んでるとは夢にも思わなかったから、尚輝はなんて言ってるんだよって聞いたら、『尚輝にはまだ何も言ってない。尚輝には悪いけど、今は自分の夢を大事にしたい』って言い出したから、あれっと思ったんだ。」


そう言って、尚輝の顔を見る秀。


「だから、改めて呼び出して問い質した。アイツがこんな大事なことを、お前に何も告げないで勝手に決めるなんてあり得ないと思ったから。しばらくは、お前より夢の方が大切だからとか言い張ってたけど、とうとう涙ながらに話してくれたよ。『尚輝の為に、身を引きたい』って。」


その秀の言葉に、尚輝は思わず唇を噛んだ。


「もちろん俺は説得したよ。そんなはずない、それはお前の考え過ぎだって。でもアイツは『あんたに何がわかるのよ?尚輝のことは、私が1番よくわかってる。今なら彩さんよりも誰よりも。』・・・そう言われてしまったら、俺にはもう、それ以上何にも言えなかった。」


「・・・。」


「その後、俺に出来たのは、京香と一緒におじさん達を説得することだけだった。スマン・・・。」


そう言うと、秀は深く頭を下げる。


「アイツな、大学院卒業する時、だいぶ担当教授に引き止められたらしい。」


「それはこの間、京香から聞いた。自信がないって言って断ったって。」


「俺が聞いてる話と違うな。」


「えっ?」


「『好きな人がいるんです。私、欲張りだから、その人も絵も両方、手に入れたいんです。』それが、京香の断り文句だったそうだ。アイツが卒業して帰って来た時、ドヤ顔で教えてくれた。」


(京香・・・。)


思わず胸が痛み、表情を歪める尚輝。
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