Far away ~いつまでも、君を・・・~
「アイツは本当にお前のことが好きだったんだ。愛してたんだよ。だからこそ、アイツは身を引いたんだ。お前が幸せになる為に必要なのは自分じゃない、そう気付いてしまったから。」


「ちょっと待ってくれ。俺は・・・俺は京香との時間が、これからもずっと続くことが当たり前だと思い込んでたんだ。だから、彩先輩のことを優先してしまった。自惚れてた・・・彼女に寂しい思いをさせてたのに気が付かなかったんだ。それを京香に謝りたいんだ、そして・・・。」


「案外強情だな、お前も。」


言い募る尚輝を遮って、秀は思わずため息をついた。


「まぁどうしても納得いかないなら、京香の所に押しかけるのもいいだろう。それを止める権利は、俺にはないし、京香がどこの国に行ったかくらいは知ってるが、詳しいことは知らされてないから、何も教えてやれない。俺に言えることは、もう何もないよ。」


「秀・・・。」


「だけど最後にもう1つだけ言わせてもらう。自分の気持ちに素直になれ、尚輝。」


そう秀に言われて、ハッとしたようにその顔を見た尚輝だが、しかし言葉を発することなく、視線を逸らす。そんな尚輝を見て、秀はまた1つため息を吐く。


「仕方ねぇな。」


一瞬、苦笑いのような表情を浮かべた秀は、気を取り直したように


「これは言わないでおこうと思ってたんだ。これを言っちまうと、今まで俺が言ってたことが、全部安っぽく、お前に聞こえてしまうのが嫌だったから。でも・・・仕方ねぇ。」


そう言って、少し間を置くと、改めて尚輝を見た。


「安心しろ。」


「?」


「アイツの、京香の帰れる場所なら、俺が用意するから。」


驚く尚輝に


「言っとくけど、アイツに頼まれたわけでもないし、もちろん約束もしてない。アイツが喜んでくれるかどうかもわからないし、あんたなんかお呼びでないって、あしらわれるだけかもしれない。俺達が今までそんな間柄じゃなかったってことは、誰よりもお前がよく知ってるはずだ。」


秀はそう言って一瞬、自嘲気味の笑いを浮かべたが


「だけど、旅立つ前、アイツが俺んちに来てさ。『じゃ、またね。バイバイ。』って、無理に笑いやがった後に、ドッと涙をあふれさせて・・・。その顔を見た時、急にそうしてやりたい、そう思っちまったんだよ。だから、決めたんだ。アイツが帰って来るまで、俺はアイツを待ってるって。そして帰って来た時に、それをアイツがどう受け止めるか、それはアイツに決めてもらえばいいことだ。」


次に決然と言った。


「秀・・・。」


「だから尚輝、お前は廣瀬さんにもう一度ぶつかって見ろ。お前が少しでも京香のことを思い、アイツに申し訳ないという気持ちがあるなら、もう逃げるな。お前がそうやって、自分の本心にフタをし続けるなら、京香は・・・ただのピエロじゃねぇかよ。」


秀の穏やかな、しかし厳しい言葉に、尚輝は胸をつかれていた。
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