Far away ~いつまでも、君を・・・~
「先生、心の傷は深いみたいですね。」


「えっ・・・。」


「あの頃の私の気持ち、少しはわかってもらえましたか?」


そう言って、いたずらっぽく顔を覗き込んで来た千夏に、尚輝はやはり苦笑いを浮かべるしかなかった。


「勝ったから、なんかご褒美欲しいな。そうだ、これから飲みに連れてって下さいよ。」


「葉山・・・。」


「あっ、言っときますけど、葉山は先日、めでたく20歳の誕生日を迎えました。」


「そうなのか、そりゃおめでとう。」


「だからもうお酒も自由、恋愛も自由・・・ですよね?」


そう言って、上目遣いに自分を見る千夏に、尚輝は思わずたじろぐ。


「そうだ、誕プレも欲しいな。20歳の誕プレだから、なんか記念に残るもの・・・そうだ、キスして下さい。」


「な、なにぃ・・・。」


分かり易く動揺するする尚輝に


「葉山のファーストキスですよ、名誉でしょ?あっ、でもこれじゃ私から先生へのプレゼントになっちゃうか。」


澄ました顔で千夏は続ける。


「おい、葉山。いい加減、大人をからかうのは・・・。」


「だから、私ももう大人だって、さっき言いましたよね。」


そう言って、おちゃらけた雰囲気を一変させた千夏に、尚輝は息を呑む。


「先生、フリ-になったんですよね?だったら私にもチャンスが出来たってことでしょ?」


真っすぐ自分を見つめる千夏。尚輝が返す言葉に困っていると


「なんてね。」


千夏が、表情をまた変えた。


「ここは神聖な道場。こんな話してたら、弓道の神様に罰当てられちゃいますよね?さ、着替えて来よ。」


そう言うと、やや呆気にとられている尚輝を尻目に、千夏はサッサと道場を出て行った。


着替え終わった千夏が、お疲れ様でしたと告げて、駅に向かおうとすると


「酒は無理だが、20歳のお祝いに、夕飯ぐらいごちそうしてやるよ。」


尚輝に声を掛けられて


「うわぁ・・・本当に誘ってもらえるとは思わなかった。言ってみるもんだなぁ。」


千夏は驚きながらも喜んでいる。


「今日は特別だ、勘違いするな。」


「はぁい。」


釘を刺した尚輝に、少々ふくれて見せながら、でも千夏は嬉しそうに助手席に乗り込んだ。
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