Far away ~いつまでも、君を・・・~
「怒ってるよな?」


「えっ?」


「それどころか憎まれてても仕方がない。俺はそれだけのことを、君にしてしまったんだ。」


「斗真さん・・・。」


「後悔している。犯罪に手を染めたことはもちろん、君を巻き込み、裏切り、苦しめたことを後悔している。今にして思えば、あの頃の俺は仕事が順調で驕っていたし、でも犯してしまった罪が発覚することに怯えてもいた。その相反する自分が独立を焦っていた。だから由理佳の忠告も受け入れられず、彼女を振り捨ててまで、突っ走る道を選び、そしてそんな自分を支えてくれる存在を求めてしまった。」


「・・・。」


「今ならそれがどんなに愚かで、君にとってどんなに残酷なことだったかわかる。だけど、あの時の俺は、自分で自分を止めることが出来なかった。自分にはもうそんな資格がないことがわかっていたのに、自分の気持ちを抑えきれずに、君を求めてしまった。それを何よりも後悔している。」


そう言い終わると、がっくりと項垂れる斗真。流れる沈黙・・・そして、それを破ったのは、今度は彩の方だった。


「教えてください。」


「えっ?」


「私は斗真さんにとって、やっぱり由理佳さんの身代わりに過ぎなかったんですか?」


そう言って、まっすぐ見つめて来る彩に、斗真は静かに首を振った。


「お前に気持ちを伝えた時に、俺は言ったはずだ。もう自分の気持ちに素直になりたいって。確かに、由理佳と別れなければ、たぶんその気持ちは、心の中にしまったままだったはずだ。だけど・・・その気持ちは絶対に嘘じゃなかった。」


そう言って、斗真は微かに笑ったが、すぐにそれを収めると


「ただ。」


「はい。」


「今、改めて思うのは、『そろそろ自分の気持ちに素直になれ』なんて、偉そうに人に説教することがあるが、気持ちに素直になることが、必ずしも正しいわけじゃないんだな。」


自嘲気味に言った。


「斗真さん・・・。」


「俺が自分の気持ちに素直になったばっかりに、彩は辛い思いをし、仕事を辞め、故郷に帰らなければならなくなった。迷惑な話だよな。」


「そうでもありませんよ。」


「えっ?」


「確かに辛い思いも悲しい思いもたくさんしました。でも・・・今の自分が、必ずしも全部嫌なわけでも、後ろ向きな気持ちで生きてるわけもありませんから。」


「彩・・・。」


「でも、斗真さんの言う通り、気持ちに素直になるって、いいことばかりじゃないんですね。私もこれからは注意することにします。」


ここで、彩は今日初めて、笑顔を見せた。
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