Far away ~いつまでも、君を・・・~
GWが明けて、少し経つと、颯天高校では中間試験があり、それが終わると、弓道部にとって、一大目標であるインタ-ハイ予選は、もう目の前まで迫っている。3年生にとっては、高校部活動の集大成の時が近づいて来るわけで、その緊張感は、選手として、また指導者として、何度となく経験してきた尚輝にとっても、特別のものだ。


インハイ出場ははっきり言って狭き門。現実的には、彼らにとってはインハイ予選が最後の晴れ舞台になる。出来れば、3年生全員をその舞台に立たせてやりたい。しかし、そこに立てる人数には限りがあり、また力のある下級生がいれば、かつての自分や彩、千夏のように、彼らを出場させなければならない。心を鬼にして、尚輝はメンバ-を決めなければならない。


試験に伴う部活休止期間も終わり、気持ちも新たに、道場に入った尚輝たちを


「オッス。」


明るい声が出迎えた。その声の主を確認した部員たちは、パッと表情を明るくすると


「彩コーチ!」


そう言って、我先にと、彩を取り囲んだ。


「来て下さったんですね。」


「うん、ようやく仕事も一段落してさ。今週からはまた週1では顔を出せると思うから、よろしくね、みんな。」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします!」


「インハイ予選まで、もう時間がないからね。ビシビシやるよ。いい?」


「はい!」


「よし。」


返って来た元気な声に、笑顔で頷く彩。それを受けて、動き出した部員たち。すっかり取り残された形になって


(俺のこの部活での立場というのは、何なんだ・・・?)


尚輝が苦笑いで立ち尽くしていると


「ということで、今日から復帰させてもらうよ。いいわね?」


横に並んで来た彩が、有無を言わさぬ口調で告げて来る。


「もちろん大歓迎ですけど、でも驚いた。」


「えっ?」


「もう来てくれないのかと思ってたから。」


尚輝のその言葉に、顔を見合わせた2人。


「そのつもりだったんだけどさ。でも、やっぱり自分の気持ちに素直になりたいなって。」


「えっ?」


「だって、大好きな弓道を、毎週のように可愛い後輩たちと一緒に出来る。せっかく尚輝が私に与えてくれた、こんな素敵で有意義な時間を絶対に手離したくない。そう思っちゃったんだ。」


そう言った彩は、満面の笑みで尚輝を見る。


「先輩・・・。」


「そういうことなんで、『ヒロハヤ』ペアで、また力を合わせて、部員のみんなと二階先生をサポ-トさせてもらいますから、よろしくね。」


そう言って離れて行く彩に


「なんですか?その『ヒロハヤ』って。バトミントンの真似ですか?」


そんなことを言いながら、尚輝も笑顔だった。
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