Far away ~いつまでも、君を・・・~
「この時期は、やっぱりアジサイだね。」


2人で訪れた校内花壇、日曜の今日は、他に人影はない。


「2年生の時、3年生を差し置いて、団体戦の代表に選ばれたのはいいけど、ボロボロの成績でさ。帰って来て、ここで落ち込んでたら、由理佳さんが斗真先輩に『せめて彩があと1中してくれてたら。』って訴えながら、泣いてるのが聞こえてきて、居たたまれなくなった。」


「そうだったんですか?」


「うん。でもそれが、そのあとの1年間、自分を叱咤するモチベ-ションになったからね。そして、次の年は、全部終わって、尚輝と話そうと思ってここで待ってたら、来なくてさ。待ちぼうけだった。」


「すみません。」


「結局、話せたのは2日後だったよね。場所はやっぱりここで、その時もアジサイが綺麗に咲いてた。時期が同じだから、当たり前なんだけど、だから私は、インハイ予選って聞くと、アジサイを思い出すんだ。」


彩はそう言って微笑んだ。


「あれからさ、10年も経っちゃった。それも信じられないし、それ以上に、10年後のインハイ予選の日に、こうやって尚輝と一緒にアジサイの前にいるなんて、想像も出来なかった。」


「そうですね・・・。」


それから、2人は並んで、目の前のアジサイを見つめる。言葉もなく、お互いに視線を送ることもなく。どのくらい、そうしていたのだろう。


「彩先輩。」


尚輝がそう呼び掛けた。


「なに?」


「実は・・・俺、先輩に聞いて欲しいことがあるんです。」


「奇遇だね。実は私も尚輝に話したいことがあって、学校で待ってたんだ。」


相変わらず、視線を前に向けたまま、2人は言葉を交わす。


「じゃ、どっちから先に話す?」


「レディファ-ストで・・・と言いたいとこですが、俺からでいいですか?」


「うん。」


彩の頷いた声に促されるように、尚輝は彼女の横顔を見た。


「今日、試合会場で児玉先生にお会いしました。」


「本当?」


ここで、彩も尚輝を見た。


「大会運営の応援に駆り出されたそうです。先輩に会えなくて、残念がられてました。」


「そうなんだ、私も会いたかったなぁ。本当は今日、仕事終わってから会場に駆け付けるつもりだったんだけど、間に合わなかったから。」


彩は悔しそうに言う。


「今回のウチの学校の好成績を、先生は喜んで下さいました。『二階と廣瀬の教え子なら、俺にとっては孫弟子のようなもの。だから俺も鼻が高い』って、言って。」


「そっか。先生らしいね・・・。」
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