Far away ~いつまでも、君を・・・~
仕事が終わり、1人暮らしの部屋に戻った。ドアを開け、真っ暗な部屋の灯りを点け、バッグをテーブルに置くと、私はパタンと椅子に腰を下ろした。


この部屋で暮らし始めて、もう7年近くなる。すっかり自分の部屋として、見慣れた光景。ここに斗真が何度来ただろう。彼との思い出が染みついた部屋、さすがに別れた直後は居たたまれない思いに駆られたが、忙しさにかまけ、グダグダしている間に、時間が解決してくれたみたいだ。


ようやく斗真のことを考えることがなくなって来たのに・・・詮無い愚痴が思わず、胸の中をよぎる。


実は、予兆があった。2週間ほど前、別れてからは当然音信不通だった斗真が、唐突に私の前に現れた。何事かと身構えると、なんとお金の無心だった。唖然とする私に会社の資金として、どうしても早急に100万必要なんだ。図々しいのはわかっているが、なんとか助けて欲しい。


そう言って、頭を下げる斗真を冷然と見ていた私は


「私があなたにそんな大金を貸す道理も義理もないでしょ。」


意識して冷淡にそう言うと、あとは彼の顔を見向きもせずに、私は彼から離れた。追いすがることも出来ずに立ち尽くす彼を背中で感じながら


(斗真、いい加減にもう目を覚まして。彩を悲しませるようなことはしないで・・・。)


私は心の中で、彼にそう訴えた。しかし現実は・・・。


思わずギュッと唇を噛み締める。悲しい表情をした彩の顔が、また浮かんで来る。


(まさか犯罪に手を染めてしまうとまでは思わなかったけど、でも私はいつか破滅の日が来ると思っていた。だけど、私は斗真を止められなかった。そして結果的に・・・ババを彩に押し付けて逃げたんだよ・・・。)


醜い嫉妬と思われるのが嫌で、私は彩と斗真が近付くことを、真剣に制止しようとはしなかった。


(私には無理だったけど、彩なら斗真を立ち直らせることが出来るかもしれない。)


そんな言い訳で、それを正当化したのだ。


(私って最低だ・・・。)


激しい自己嫌悪に襲われ、私はテーブルに突っ伏す。


(彩、ごめん・・・。)


溢れ出す涙を私は、止めることは出来なかった。
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