Far away ~いつまでも、君を・・・~
斗真のことは、相変わらず何の情報も入って来ない。焦燥の時間を過ごしていた私は、ようやく1人の人物を思い出して、連絡を取ってみた。


『久しぶり。』


携帯から聞こえて来た声は、相変わらず落ち着いていた。


『ひょっとしたら、そろそろ連絡が来る頃かなと思ってたよ。』


声の主は伊藤公也さん。私の大学のサークルの1年先輩。在学中に司法試験を突破した秀才で、卒業後は某法律事務所に就職。今やバリバリの現役弁護士。斗真とは親友といえる間柄で、その縁で斗真の設立した会社の顧問弁護士になったと聞いている。


『驚いただろ?』


「はい。」


『俺もだ。まさか、こんな形で俺の出番が来るなんて。それに本郷の会社と契約してるのは、あくまで俺個人じゃなくて、ウチの事務所だからな。俺の友人の会社だから、新興企業と契約したのに、いきなりこれだからな。所長から大目玉を食った。』


いきなりの嘆き節に


「すみません。」


私は思わず、謝る。


『別に由理佳ちゃんが謝ることじゃない。本郷と君はもう別れてるんだから。』


「・・・。」


『会社の後始末の方は、事務所の先輩が担当してくれることになったから、俺は本郷個人の弁護を担当することになると思う。』


そう言う伊藤さんに、私は堰を切ったようにいろんなことを尋ねた。話せないこと、わからないことがまだ多いと言いながら、逮捕されたあと、斗真は素直に取り調べに応じていること。罪を認め、後悔を口にしている一方、ご両親や他の親類縁者などとの面会は頑なに拒否していることなど、先輩は出来る限りのことを教えてくれた。


『でも。さすがだな。』


「えっ?」


『君は本郷の変化をちゃんと見抜いていた。』


「犯罪を犯してるとまでは、思ってませんでしたけど・・・。」


『そうだよな。俺だって、瀬戸だってまさかだよ。それに廣瀬さんだっけ?アイツの新しい彼女。俺は面識がないんだけど、素敵な女性らしいじゃないか。彼女なんて、本当に気の毒だ。』


「はい・・・。」


彩の名前を聞くと、私の胸はギュッと痛む。先輩からは、何かあったらまた知らせるよって言ってもらって、電話を切った。


そして翌日、私は勇気を出して、彩に会いに行った。恨み言の1つもぶつけられるのを覚悟して行ったけど、彩はそんなそぶりは全く見せず、ただ自分の面会希望から逃げ回り、正面から向き合おうとしない斗真への失望と悲しみが、彼女を包んでいた。


(彩・・・。)


私は、彼女に掛ける言葉も見つからず、斗真への憤りの気持ちを抑えるのに、必死だった。
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