Far away ~いつまでも、君を・・・~
その後、なんとも言えない雰囲気で、練習は続けられたが、そこへ会議を終えた児玉が入って来た。


「どうしたんだ?」


すぐにそんな空気に気付いた児玉に、彩はありのままを報告する。彼女の言葉を児玉は黙って聞いていたが


「わかった。今日の練習は、ここで打ち切る。」


そう指示を出した。


「で、でも・・・。」


試合までもう時間が・・・と言おうとした彩に


「こんな精神状態で、練習しても意味はない。弓道とはそういうものだ。」


と言い切る児玉。彩はその言葉に頷くしかなかった。


そそくさと後片付けをし、部員達たちは言葉少なに道場を後にする。


やがて、着換えを済ませ、更衣室を出ようとする彩に


「町田くん、携帯繋がんないし、LINEも既読にならないよ。」


と遥。が、彼女の言葉に振り向きもせず


「そう。ごめん、先に帰ってて。」


と言い残すと彩はそのまま、更衣室を出る。その後ろ姿を、遥は引き止めることが出来ないまま見送った。


更衣室を出た彩が向かったのは、校内花壇だった。10月もそろそろ半ば。だいぶ短くはなって来たが、まだ陽は完全には落ちていない。出迎えてくれた花々を見て、彩はフッと息をついた。


「秋・・・だな。」


思わず、そんな言葉が口をつく。彩を初めてここに連れて来てくれたのは、由理佳だった。


「ここで、花を眺めてると、嫌なことがあっても全部忘れられる。疲れてても、元気が出て来るぜって斗真が教えてくれた。」


そう言って、由理佳は笑った。以来、彩も事ある毎に足を運ぶようになった。


(斗真先輩、由理佳さん。私にはやっぱり主将、無理かも・・・。)


そんなことを考えていると


「やっぱりここだったんですか。」


聞き慣れた声がする。驚いて振り返ると、そこには尚輝の姿が。


「えっ、なんでここだってわかったの?」


思わず、そう尋ねる彩。何かあると、ここに足を運ぶことは、遥にも話したことがない。


「ここは俺が彩先輩と初めて会った場所。」


「えっ、そうだっけ?」


心当たりのない彩が、そう問い返すと


「初めて見掛けたって、言った方が正確かな?」


そう言って、尚輝は笑った。
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