Far away ~いつまでも、君を・・・~
「ごめん・・・。」


そんな尚輝の顔を少し見つめたあと、彩はポツンと呟くように言った。


「斗真先輩の時も、由理佳さんの時も、部員が主将に反発するとこなんて、見たことなかったから。正直、ちょっとショック受けちゃってさ。ああ、私じゃやっぱり駄目なんだなって・・・。」


「・・・。」


「柄にもなく、おセンチな気持ちになっちゃって、ここに逃げて来ちゃった。弱っちいよね、私。」


「そんなこと、ないっすよ。」


落ち込む彩に、尚輝は笑顔で首を振る。


「明日、もう1度ちゃんとマチヒロと話し合ってみる。このままでいいはずないし、アイツとはこれまでずっと一緒にやってきたんだもん。主将として、逃げずに向き合ってみるよ。」


そう言った彩は


「尚輝、ありがとう。」


と笑顔を向けた。


「先輩・・・。」


その笑顔にドギマギしてしまう尚輝に


「あんたに一個、借りが出来ちゃったな。」


と彩は続ける。


「俺はただ、自分の思っていることを、素直に言っただけですから。でも、もしそれを先輩が、借りだと思ってくれるんなら・・・。」


ここで一瞬、間を置いた尚輝は


「借りを返すつもりで、1回デ-トして下さい。」


そう言って頭を下げる。


「えっ?それとこれとは話が別。どうして、そういう風に結びつけるかな。」


途端に呆れた表情になる彩。


「やっぱりダメっすか。」


と一瞬落ち込んだ尚輝だったが


「ま、いいです。とりあえず、今日は一歩前進しましたから。」


気を取り直したように言う。


「初めて『尚輝』って呼んでくれましたよね、さっき。」


「えっ?」


「入部した日に一回だけ『二階くん』って呼んでくれたけど、それ以降はずっと『あんた』呼ばわりだったから。結構嬉しかったんです。」


「そ、それは・・・私、苗字の呼び捨て、ちょっと苦手だから・・・。」


「なんでもいいです。とにかく一歩前進ということで、今日は良しとします。」


そう言って笑う尚輝。


「あんた、立ち直り早いね。」


呆れ半分、感心半分で言う彩に


「だって俺、彩先輩のこと好きだから。」


そう言い切る尚輝。


「あんたもしつこいね。さ、帰るよ。」


尚輝の真っすぐな思いに、ややたじろいだ彩は、それを誤魔化すように、やや乱暴に言うと、歩き出した。
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