Far away ~いつまでも、君を・・・~
「追って来たんだね、彼。」


「・・・。」


「そうじゃなきゃ、今になって、わざわざ入部して来ないよ。」


「・・・。」


「彼、本気だよ。」


「遥。」


「えっ?」


「練習始まるから、集中。」


いろいろ言い募る遥に、ピシャリと言うと、彩は弓を手に取る。そこには凛々しい弓道部員、廣瀬彩がいた。


(そう、練習だ。)


その姿を見て、遥も気持ちを切り替えた。


弓で矢を射て、的に当てる。端的に言ってしまえば、弓道とはそう言うものだ。


しかし、その間にある一連の所作を通じて、心身を磨く「武道」である。普段、どんなにおちゃらけてる人間でも、ひとたび、弓矢を手にして、的を見据えば、その姿の凛々さ、その纏った厳かな雰囲気に誰もが息を呑む。


そして今、矢を射る所作に入ろうと構えた彩の姿を見れば、気軽く、いつものように声を掛けることは、遥と言えども、とても出来ない。


(カッコいい・・・。)


我が親友ながら、遥は正直にそう思う。28m先にある、藁で作られた的に向かって、矢を放つ。ちなみに弓道では、的のどこに当たっても命中になる。真ん中に当たった方が得点が高いということはない。そこが洋弓(ア-チェリ-)との大きな違いの1つだ。


ヒュンという音と共に放たれた矢が、見事命中する。それを見た彩は、表情も変えずに一礼して、下がって行く。
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