Far away ~いつまでも、君を・・・~
「彩。」


「うん?」


「二階くんとなんかあったの?」


「えっ?」


「最近彼、彩に全然近づいて来ないから・・・。」


「なんにもないよ、って言うか、もともと何もないんだから。アイツが一方的に私にまとわりついて来てただけだし。」


「それはそうなんだけど、それにしても年が明けたら急にさ・・・。」


「年が変わって、心境も変わったんじゃないの?私としては清々してるし。」


その日の部活が終わり、帰宅の途についた彩と遥。年が明けてからの、尚輝の態度の変化に、彩はもちろん、他の部員たちが気が付くのに、大した時間は掛からなかった。


陰に陽に、彩にアタックし続けて来た尚輝が、ピタリとその動きを止めた。相変わらず道場には一番乗り、元気よく彩に挨拶はして来るし、練習中も必要な会話は交わす。そして、部活帰りも


「お疲れ様でした!」


と挨拶して、帰って行く。でも、ただそれだけ・・・。


「ホントに清々してる?」


ふとそんな声が聞こえて来て、彩はハッとして、遥を見た。


「えっ、どういう意味?」


驚いて聞き返すと


「どれだけ自分で意識してるか知らないけど、彩、最近結構、二階くんのこと、目で追ってるよ。」


真顔で言われて


「エ~!」


と驚きの声を上げる。


「ちょっと遥、変なこと言わないでよ。そんなの絶対にありえない!」


語気鋭くそう言った彩は


「でも本当のことだから。」


と冷静に遥に返されて、二の句が継げなくなってしまう。


「彩。」


やがて、遥が静かに問いかける。


「基本的なこと、聞くんだけど、なんでそこまで、二階くんの気持ちを拒むの?」


「なんでって言われても・・・。」


まっすぐに問われて、一瞬戸惑ったように口籠ったあと


「じゃ、逆に聞くけど、遥は尚輝のこと、どう思ってる?」


と問い返す彩。


「うん、別に特別何も、だな。」


「でしょ?そんな感情しか持てない相手に、いきなり告られても、別になんとも思わないのが普通じゃない?」


「そうかもしれないけど、あそこまで熱心に言い寄られたら、心動いちゃうかもしれない。よっぽど、好意を持てない相手でもない限り。」


「遥・・・。」


そう答えた遥の顔を、彩は驚いたように見た。
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