Far away ~いつまでも、君を・・・~
「いよいよ、明日からですね。」


自分の横に並んできた彩に、尚輝は言う。


「うん。私にとっては、恐らく颯天高弓道部員としての、最後の試合になる。」


「彩先輩・・・。」


「言っとくけど、だからと言って、インハイ出場をハナから諦めてるわけじゃないよ。狭き門なのは、百も承知だけど、でも力の限り、チャレンジするから。」


「はい、それでこそ彩先輩です。」


彩の言葉に、安心したように尚輝は笑顔になる。


「1年前の屈辱、忘れたことないし。」


そう続けた彩の耳に


『せめて彩が、あと1中してくれてたら・・・。』


由理佳の言葉が、蘇って来る。


「1年前、私はプレッシャ-に負け、自分の力を発揮できなかった。由理佳さんたち、当時の3年生の足を引っ張って、迷惑を掛けてしまった。私は明日、絶対に悔いを残さない戦いをする。それが先輩たちに出来る、せめてもの償いだから。」


そう言った彩の顔を、尚輝は見つめていたが、やがて


「じゃ、明日は彩先輩は由理佳さんたちの為に弓を引くんですか?」


と問い掛けるように言った。


「えっ?」


驚いて聞き返す彩に


「俺は明日、誰の為にでもない、自分の為に弓を引きます。」


そう言い切った尚輝は、彩の両肩を掴むと、彼女を自分の方に向けた。


「尚輝・・・。」


これまでにない強引な彼の仕草に、思わず俯いた彩の顎に、尚輝は手を置き、上を向かせる。動揺を露にする彩を真っすぐに見下ろし


「好きです。」


尚輝は、心を込めて言った。今までもいい加減な気持ちで告白したことは、1度もなかったが、今は全ての思いを込めて、尚輝は告げた。何も答えられず、自分を見つめる彩の視線を外させないようにしながら、尚輝は続ける。


「先輩と出会って1年半、俺は本気で先輩のことが好きでした。いや、もちろん今でも好きです。だけど・・・いつまでも先輩に付きまとってるわけにはいかない。それくらいのことは、わかってるつもりです。だから、これが・・・最後です。」


その尚輝の言葉に、彩はハッと目を見張り、それに応えるように、尚輝は彩の顎を開放する。
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