Far away ~いつまでも、君を・・・~
「明日からの試合、男子団体は必ず本戦に進みます。そして個人は、俺は2年前の本郷先輩の記録を超えて見せます。だから・・・それが達成出来たら、俺と付き合って下さい。」


その言葉を聞いて、しばし唖然とした表情で尚輝を見つめていた彩は、ハッと我に返ると


「本気で言ってるの?斗真先輩の記録は、先輩が3年生の時のだよ。それを2年生のあんたが抜くって言うの?」


とまるで詰問するような口調で問い返す。その彩の言葉に


「はい。」


とはっきり答える尚輝。


「男子に二言はないね?」


更にそう言った彩の顔を真っすぐに見て


「はい。」


尚輝をそう言い切った、そして訪れる沈黙。2人は言葉もなく見つめ合う。やがて先に口を開いたのは、彩の方だった。


「わかった。」


「えっ?」


「いいよ。」


「先輩・・・。」


「尚輝が、その約束果たしてくれたら・・・あんたの彼女になってあげる。」


そう言って、にっこり微笑んだ彩を、しばし茫然と眺めていた尚輝は


「ま、まじですか・・・?」


信じられないと言わんばかりの尚輝。


「うん、女子に二言はないから。」


その彩の答えに、尚輝はパァッと表情を明るくすると


「ヨッシャッ!」


大声を上げて、大げさなガッツポ-ズを決めた。


「信じらんねぇ。どうせ、また速攻で振られると思ってたから・・・本当に信じらんねぇ・・・。」


そうひとりごちた尚輝は


「やっと・・・最初で最後のチャンスが来た。とにかく、やりますよ、俺。」


喜びを隠せない。


「ただし。」


「えっ?」


「おまけは、なしだからね。」


「先輩・・・。」


「あんたがさっき言った条件、1つでもクリア出来なかったら、この話は終わりだよ。それでもいい?」


冷静な彩の声が飛ぶ。その言葉に、一瞬我に返ったように、彩を見た尚輝だったが


「望むところです。」


と力強く頷いた。そして、また見つめ合う2人。


「行こうか。」


やがて彩が言った。


「明日、私も全力でやるよ。自分の為に力一杯、弓を引く。尚輝が約束を果たしてくれた時に、あんたの横に居て、恥ずかしくないように。」


「よろしく、お願いします。」


「うん。」


そんな2人を、ようやく傾き始めた初夏の陽が照らしていた。
< 63 / 353 >

この作品をシェア

pagetop