Far away ~いつまでも、君を・・・~
1射、2射・・・尚輝は次々と的中させていく。


「凄い集中力だ。」


感に堪えないといった口調で、児玉が言う。彩も全く同感だった。


(あんた、いつの間にこんな凄い選手になったの・・・?)


ついに5連続的中。予選を突破したと同時に、上位進出が十分、望める状況となった。


「こりゃ、マジであるぞ。」


その町田の言葉に、周囲が固唾を飲んで頷いた次の瞬間、第6矢が的から外れるのが、見えた。


(外れた・・・。)


彩は息を飲み、周囲からはため息が漏れるが


(大丈夫、まだ2矢ある。)


と思い直して、前方を見つめる。


一方


(外れた・・・。)


6矢目が外れたのが見えた途端、それまで無我夢中、無双状態だったのが、覚めた形になり、尚輝は我に返った。


(あと何射残ってるんだっけ・・・?)


一瞬、そんなことを考えて、すぐに現実を把握した尚輝。


(まだ、チャンスはある。)


そう思った途端に、急激なプレッシャ-が襲って来る。


(おいおい、どうした?しっかりしろ。俺!)


そう自分を叱咤して、所作に入る尚輝。しかし、もう彼は先ほどまでの彼ではなかった。7射、8射をあえなく外し、尚輝の戦いは終わった。


(世の中、それほど甘くねぇよな・・・。)


そう自嘲しながら一礼して、的前を後にした尚輝。ふと見れば、仲間達が精一杯の拍手を贈ってくれている。彼らに一礼し、尚輝は彩の姿を探した。そして


(先輩、終わりました。今まで、ありがとうございました!)


次の瞬間、彼はサッと彩に向けて、手を上げていた。


(尚輝・・・。)


その尚輝の仕種が、自分への惜別の挨拶のように、彩には見えた。


「尚輝・・・。」


思わずそうつぶやいて、尚輝のもとに走ろうとした彩の目の端に、1つの人影が走り去るのが映った。


(あの子は・・・。)


思わず、彩はその足を止めていた。
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