Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌日、登校して来た尚輝に


「おはよう、大丈夫?」


と京香が声を掛けて来る。


「おはよう。心配掛けて、悪かったな。でも、もう大丈夫。」


尚輝は明るい表情で答える。


「そっか、ならよかった。お医者さんじゃ、治せない病だからね。心配してたんだ。」


「いや、俺、昨日は本当に・・・。」


「無理しなくていいよ。」


そう言って微笑む京香。


「菅野・・・。」


「さ、今日からは、また前を向いて行こ。」


そう言って、京香は自分の席に戻って行く。


(そうだ、前を向いて行くしかない。)


京香の言葉を心の中で、リピートして、尚輝は表情を引き締めた。それからはいつも通りに過ごして、放課後に。


立ち上がった尚輝に


「部活、行くの?」


と京香が聞いて来る。


「ああ、もちろん。」


尚輝は短く答える。


「じゃ、頑張ってね。」


「ありがとう。」


京香に見送られる形で、尚輝は教室を出た。


部室にはいつも通り一番乗り。遅れて現れる部員たちに


「昨日はすまん。」


と明るく声を掛けながら、尚輝は練習の準備をする。やがて彩が遥と並んで、入って来た。


「チワッす。」


元気よく挨拶した尚輝に、彩は軽く頷いただけだったが


「二階くん、大丈夫?」


遥は心配そうに尋ねる。


「御覧の通りです。」


いつもと変わらぬ快活さで、尚輝が答えたのを見て


「じゃ、始めようか。」


彩は部員たちに告げた。


こうして、練習も普段通りに始まった。やがて顧問の児玉も姿を現し、彩も遥も、児玉と一緒に後輩たちにアドバイスを行う。だが、今までと違うのは、2人とも、自らが弓を手にすることはあまりなく、手にしたとしても、ほとんどが範を示す為であり、更に町田を始め、何人かの3年生が姿を見せてなかったことだった。


練習は続いて行く。そんな合間に、彩はさっと尚輝に近付いた。


「練習終わったら、花壇に来て。」


えっという表情で、尚輝が彩を見ると、彼女はそのまま何事もなかったかのように離れて行った。
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