Far away ~いつまでも、君を・・・~
梅雨が明け、夏が来た。


「せっかく期末考査が終わったっていうのに、解放感が全然ないよね。」


「受験生はつらいね。」


遥とそんな愚痴を言い合いながら、彩は受験勉強に明け暮れる日々。自分で言うのもなんだが勉強は嫌いではないし、それなりの成績を修めていると思っているが


「模試なんて、いくら受けても合否判定DやEばっかりだし、ホント、落ち込む為に受けさせられるのかと思うよ。」


とキレ気味の遥の言葉に、思わず頷いてしまう。そんな彩を癒してくれるのは、やはり1週間に1度訪れている弓道場での時間だった。


先輩の斗真も由理佳も、引退後は道場に顔を出すことはなかったし、遥や町田たちを一緒に行こうと誘っても、付き合ってはくれなかった。


我ながら未練がましいとは思ったが、でも彼らのように完全に弓を手離してしまうことは、彩には出来かった。


「また来ちゃった、ごめんね、尚輝。」


その日も、そう言いながら、道場に入った彩に


「何言ってんですか。こちらは大歓迎です。先輩が来ると、こいつらの目の輝きが違いますから。」


尚輝は、後輩達を指差して笑う。実際、彩が弓を構えると、「彩チルドレン」と言われる1年生が男女問わず、一斉に熱い視線を向けてくる。


(チルドレンって・・・私、この子たちと2つしか齢、違わないんだけど・・・。)


気恥ずかしさと困惑を抱えながら、彩は矢を射る。


「さすがですねぇ。おいお前たち、ただ先輩のこと、ボヤッと見とれてないで、ちゃんといろいろ参考にしろよ。」


そう言った尚輝に


「お前、どの口で、そのセリフ言う?」


「全くだよ。」


鮫島と木下が小声でツッコんでるのが聞こえ、彩は思わず吹き出しそうになる。


(尚輝だって、いつまでも私がうろついてたら、いろんな意味で目障りだよね。)


そんなことを考えたこともあったが、当の尚輝は、全くそんなそぶりも見せない。どうやら、本気で彩が来るのを歓迎しているようだ。


「俺は確かに彩先輩に振られたけど、俺があの人の大ファンであることは、変わりないし、あの人の弓を引く姿からは、何度見ても学ぶことがある。1年の連中にも、先輩の立ち振る舞いから、いろんなことを学んでほしいし、学べるはずだ。」


「なるほど、あんな可愛い彼女が出来れば、失恋の痛みもとっくに癒えたってことですか。」


「羨ましいねぇ、尚輝くん。」


「バカ、違ぇよ。」


尚輝たちがこんな会話を交わしていることは、もちろん彩は知らない。
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